この記事でわかること
- 予測資金繰り表から必要融資額を考える方法
- 楽観・標準・リスクの3つのケースの考え方
- リスクケースをどこまで厳しく見るか
- 物価や人件費の上昇をどう織り込むか
- 手許流動性を踏まえた資金調達の考え方
はじめに
以前、日本政策金融公庫の方から、こんな話を聞いたことがあります。
「融資は、なるべく少ない金額で申し込んだ方が審査に通りやすいと思っている社長さんがいます。
でも、少なすぎると、かえって審査で落とされることがあるんですよね。」
必要な資金が1,000万円あるのに、「少ない方が通りやすいだろう」と考えて500万円だけ借りた。
ところが、その後すぐに資金が足りなくなり、追加融資が必要になった。
さらに悪ければ、せっかく融資をしたのに資金ショートを起こし、返済そのものが止まってしまうこともあります。
つまり、
「借入額が少ない=金融機関にとって安全」
とは限りません。
大切なのは、できるだけ少なく借りることではなく、
自社にとって必要な資金を、根拠を持って計算することです。
そのために役立つのが、予測資金繰り表です。
予測資金繰り表から必要融資額を考える
将来の資金繰りを考えるとき、
「あと1,000万円あれば足りそう」
という感覚だけで融資額を決めるのは危険です。
売上が予定どおり上がるとは限りません。
大口案件の入金が翌月へずれることもあります。
原材料価格や人件費が想定以上に上がることもあります。
そこで、売上、入金、仕入、人件費、経費、税金、借入返済などを月ごとに並べ、将来の現預金残高を予測します。
すると、
「予定どおりなら資金は足りる」
「入金が1か月遅れると資金残高が大きく減る」
「仕入価格が上昇すると、この月に資金が厳しくなる」
といったことが見えてきます。
予測資金繰り表は、
「いくら調達しておくべきか」を考えるだけではなく、
「いつ資金が足りなくなるか」を確認するためにも使えます。
楽観・標準・リスクの3つのケースを考える
ただし、将来の数字を正確に当てることはできません。
そこで、一つの予測だけを見るのではなく、
楽観ケース
標準ケース
リスクケース
の3つを考えてみます。
楽観ケースは、売上や受注、入金などが比較的順調に進んだ場合です。
標準ケースは、現在の受注状況や過去の実績などから見て、最も可能性が高いと考える予測です。
リスクケースでは、
- 売上が10%下振れする
- 大口案件の入金が1か月遅れる
- 原材料価格がさらに上昇する
といった状況を織り込みます。
3つ作る意味は、単に将来に幅を持たせることだけではありません。
楽観ケースとリスクケースの両方を見ることで、
標準ケースが本当に現実的な予測になっているか
を確認しやすくなります。
例えば、標準ケースの数字が楽観ケースとほとんど変わらなければ、標準ケースそのものが少し楽観的なのかもしれません。
逆に、標準ケースがリスクケースに近すぎるのであれば、必要以上に慎重な予測になっている可能性もあります。
両側から見ることで、標準ケースの妥当性がよりはっきりしてきます。
そして、ここで冒頭の公庫の方の話につながります。
標準ケースだけを見て必要融資額を決めると、売上の下振れや入金の遅れが起きたときに、追加融資が必要になるかもしれません。
だからこそ、融資額を考える際には、合理的に想定できるリスクケースまで確認しておくことが大切です。
リスクケースは、どこまで厳しく見るのか
ただし、リスクケースは厳しくすればするほどよいわけではありません。
売上を30%減らし、
大口取引先が倒産し、
原材料価格が20%上昇し、
さらに入金も2か月遅れる。
このように悪条件をいくらでも積み重ねれば、必要資金はいくらでも増えてしまいます。
それでは、かえって計画としての説得力がなくなります。
考えたいのは、
合理的に想定できる範囲の下振れです。
例えば、
過去の売上の振れ幅、
現在の受注残、
案件の受注確度、
過去の入金遅延、
原材料価格や人件費の動向などを見ながら、
「この程度までなら十分起こり得る」
という範囲を設定します。
リスクケースとは、
最悪の事態を想定するものではなく、現実的に起こり得る下振れを確認するもの
と考えた方がよいでしょう。
価格上昇は、あらかじめ織り込んでおく
もう一つ考えたいのが、物価や人件費の上昇です。
将来予測を作る際、現在の原材料費や人件費を、そのまま将来も同額と置いてしまうことがあります。
しかし、今後の価格上昇がある程度見込まれるのであれば、その分は最初から織り込んでおいた方が現実的です。
例えば、現在1,000万円かかっている材料費について、
翌年も1,000万円とするのではなく、
一定の価格上昇率、いわゆるエスカレーションを見込んで1,030万円、1,050万円と置く。
これは必要以上に悲観的な計画を作ることとは違います。
分かっている範囲の将来変化を、予測に反映しておくということです。
そして、標準ケースである程度の価格上昇を織り込んだうえで、
それをさらに上回った場合をリスクケースとして考えることもできます。
資金繰りには、一定の手許流動性も必要
もう一つ、予測とは別に考えておきたいのが手許流動性です。
私自身、企業財務で、「流動性確保」という考え方を実際に使ってきました。
資金繰りは、
「現預金がゼロにならなければ大丈夫」
ではありません。
月末の現預金が50万円、100万円しか残らなければ、予定外の支払いが一つ発生しただけでも資金繰りが苦しくなります。
そこで、
月商の何か月分の現預金を手許に持っているか
という見方をします。
中小企業であれば、月商の2~3か月分程度を一つの目安として考える方法があります。
もちろん、必要な水準は会社によって違います。
売掛金の回収サイトが長い会社、
季節変動が大きい会社、
固定費負担が大きい会社などでは、
より厚い手許資金が必要になる場合もあります。
例えば、月商1,000万円の会社で、最低でも月商2か月分にあたる2,000万円程度は確保しておきたいとします。
予測資金繰り表を作った結果、
楽観ケースでは3,000万円、
標準ケースでは2,300万円、
リスクケースでは1,200万円
まで現預金が減ることが分かった。
この場合、リスクケースで資金ショートしていないからといって、
「1,200万円残るので問題ありません」
とは限りません。
最低でも2,000万円程度の手許流動性を確保したいのであれば、その差額800万円も資金調達を考える一つの根拠になります。
これなら、
「念のため800万円多く借りたい」
ではなく、
「予測される下振れが起きても、一定の手許流動性を確保するために必要です」
と説明できます。
必要額と返済可能額は両方見る
ここまでの考え方によって、融資の申込み額を決めたとしても、それだけで十分ではありません。
その金額を、
将来の利益やキャッシュフローから返済できるか
も確認する必要があります。
資金繰り上2,000万円必要だと分かっても、会社にその返済力がなければ、融資だけで問題を解決することはできません。
その場合は、投資時期や支出内容、回収条件、価格転嫁なども含めて見直す必要があります。
つまり、
資金繰り上、いくら必要なのか。
そして、
その金額を返せるのか。
この両方を見ることが必要です。
まとめ
融資は、申し込む金額を少なくすれば審査に通りやすくなるとは限りません。
必要資金を少なく見積もった結果、すぐに追加融資が必要になったり、資金ショートを起こしたりしては意味がありません。
予測資金繰り表を作り、
楽観・標準・リスクの3つのケースから将来の振れ幅を見る。
その中で標準ケースが現実的な予測になっているかを確認し、合理的に想定できるリスクケースまで考える。
価格上昇など、ある程度予測できる変化についてはエスカレーションを織り込む。
さらに、予測とは別に、月商の2~3か月分などを一つの目安として一定の手許流動性も確保する。
そのうえで、必要融資額と返済可能額の両方を確認します。
「なるべく少なく借りる」のではなく、
「なぜこの金額が必要なのかを説明できるようにする」。
融資を考える際には、この視点を持っておきたいところです。
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