損益計算書から見るキャッシュが減る原因
フリーキャッシュフローは「経常利益+減価償却費ー法人税等」で求められます。資金繰り表の経常収支に近い値であり、結果がマイナスあれば本業の儲けでキャッシュを獲得するどころか、むしろ減っていくという状況を表します。早めに改善策を講じなければ、遠からず、資金ショートで倒産ということになります。
東京商工リサーチによれば、黒字倒産(利益は出ているのに倒産するケース)は、倒産全体の4~5割にも上るのが実態です。
一方、プラスであったとしてもまだ安心出来ません。設備資金のために借りた長期融資はフリーキャッシュフローから捻出することになるため、返済額を上回っていなければなりません。

仮に決算書の損益計算書の利益が黒字であっても、多額の設備投資を行って、毎月の返済額が大きければ、下の方の図のように、フリーキャッシュフローで足りない分は手元のキャッシュを切り崩して返済に充てる必要があるため、会社からキャッシュが減っていく状況です。
多くの経営者が「なぜ黒字を出しているのにお金が減っているのか」と頭を悩ませることになりますが、この構造が見えていないからです。
手元のキャッシュが平均月商の2か月分を切ると、運転資金がショートしてきます。1か月以下は赤信号なので、銀行に追加融資を申し込まざるを得ません。
借入れを返すために借入れを追加するという状況であり、雪だるま式に借入れが増える危険な状態になるため、早めに手を打つ必要があります。具体的には本業でキャッシュを稼げる状態を出来るだけ早く作り出す、一時的には不動産など固定資産を売却して借入れを減らす、銀行と交渉し毎月の返済額を減額してもらう、などです。
貸借対照表から見るキャッシュが減る原因
貸借対照表からもキャッシュが減少する要因を把握することが出来ます。貸借対照表は一定時点での残高を表しているので、キャッシュの流れを見るためには複数年度の貸借対照表を並べて、増減比較(前期比)をします。
[貸借対照表から分かるキャッシュが減る要因の例]
・買掛金、支払手形の減少(キャッシュで支払い)

・借入金の減少(キャッシュで返済)

・棚卸資産の増加(キャッシュで仕入れ、売れるまでキャッシュにならない)

・設備や土地を購入(長期借入金が増えていない分は手元キャッシュで支払い)

二期分の比較で、逆にキャッシュが増えていることも把握することが出来ます。
[貸借対照表から分かるキャッシュが増える要因の例]
・売掛金、受取手形の減少(キャッシュで回収)

・借入金の増加(融資実行でキャッシュを入手)

・固定資産の減少(売却処分により換金(廃棄処分による減は除く))

黒字でもキャッシュが減る会社の対処例
上記のように、単に「売上が上がっている」「利益が出ている」というだけでは、手元のキャッシュの増え方、減り方は分かりません。
黒字なのに貸借対照表の現金・預金の残高が減ってきているのはなぜなのかを理解し、出血を抑えなければなりません。
[データ]
・本業は順調で、フリーキャッシュフローは毎年プラスを維持
・1年目に1,000の設備投資を行い、新規で800の借入れをした。
・借入れの返済が2年目から毎年100ずつ発生。
(⇒横スクロール)
| 1年目 | 2年目 | 3年目 | 4年目 | 5年目 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 経常利益 | 100 | 100 | 100 | 100 | 100 |
| 減価償却費 | 10 | 10 | 10 | 10 | 10 |
| 法人税等 | ▲40 | ▲40 | ▲40 | ▲40 | ▲40 |
| フリー キャッシュフロー | 70 | 70 | 70 | 70 | 70 |
| 棚卸資産の増 | ▲10 | ▲20 | ▲20 | ||
| 棚卸資産の減 | 20 | 20 | |||
| 新規の借入れ | 800 | ||||
| 借入金の返済 | ▲100 | ▲100 | ▲100 | ▲100 | |
| 固定資産の購入 | ▲1,000 | ||||
| キャッシュの増減 | ▲140 | ▲50 | ▲50 | ▲10 | ▲10 |
[分析]
この会社のフリーキャッシュフローはプラスを維持していますが、借入金の返済100がフリーキャッシュフロー70を超えているため、手元のキャッシュは年々減っていきます。
対処方法としては、
・本業の利益をもっと増やしてフリーキャッシュフローを増やす
・融資の返済額を減らしてもらうよう銀行と交渉する
・手元の棚卸資産を減らして、キャッシュ化する
・既設の固定資産を売却するなどして手元のキャッシュを増やす
などが考えられます。
・そもそも設備投資(固定資産の購入)が身の丈以上だった
ということも考えられます。
新規融資を追加して手元のキャッシュを増やすなどの対処方法もありますが、毎年の返済額も増えることになるので、銀行依存にならないためにも、再び手元資金がショートする前に、抜本的に本業の体質改善を図る必要があります。
まとめ
単年度の決算書をただ眺めて、儲かっている、儲かっていない、などの見方だけでは、「来期はもっと頑張ろう」というざっくりした見方しか出来ません。
損益計算書と貸借対照表を組み合わせてキャッシュという観点で分析することで、黒字倒産(利益は出ているのに倒産するケース)の危険性に早めに気付き、対処することが大変重要です。
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