働く老人は厚生年金が減らされる?
通常、老齢厚生年金は、65歳から支給されます。
ところが、老齢厚生年金を受給されている方が厚生年金保険の被保険者(働いていて、厚生年金保険料を納めている方)であるときに、受給されている年金額がカットされる場合があります。
会社からもらう給与や賞与と、受給している老齢厚生年金の額の合計額が一定額を超える時に、老齢厚生年金が減額調整される(つまり、減らされる)のです。
この仕組みのことを「在職老齢年金」と言います。
「在職老齢年金」という種類の年金をもらう、というわけではありません。あくまで「仕組み」のことです。
また、老齢厚生年金は、原則として70歳になれば、被保険者(保険料を納める人)でなくなるため、働いていても厚生年金保険料を納める必要はなくなります。
この場合、「老齢厚生年金を受給されている方が厚生年金保険の被保険者」という前述の要件には当てはまらないのですが、同様に、受給している老齢厚生年金の額の合計額が一定額を超える時に、老齢厚生年金が減額調整される(つまり、減らされる)のです。
厚生年金はいつからいつまで払うの?
日本の公的年金制度は、20歳以上60歳未満のすべての者を対象とする1階部分の国民年金(基礎年金)と、2階部分として会社員・公務員等が加入し報酬に比例して年金を受給する厚生年金保険の2階建て構造となっています。
これとは別に、3階部分として、企業年金やiDeCoなどの私的年金があります。
このうち「在職老齢年金の仕組み」との関係で言えば、厚生年金の部分が関係します。
国民年金の保険料は、20歳から60歳までの40年間納めるのが原則です。
保険料は、月額17,510円(2025年度)です。
これに対し厚生年金の保険料は、「就労してから70歳まで」納めることになります。就労者には20歳未満も含みます。
保険料は、被保険者の標準報酬月額および標準賞与額に保険料率(1,000分の183)を乗じて計算されます。負担は労使折半です。
老齢厚生年金はいつからもらえるの?
では、厚生年金はいつからもらえるのでしょうか。
会社員等は現役時に、厚生年金保険料を国民年金保険料に上乗せして納めていますので、老齢基礎年金(国民年金)に老齢厚生年金を上乗せしてもらうことが出来ます。
年金は基本的に、65歳到達時から受け取れます。
「特別支給の老齢厚生年金」といって、一部65歳未満の方(2025年現在、1959年4月2日~1961年4月1日生まれの男性、および1960年4月2日~1966年4月1日生まれの女性で、65歳未満の方)も受け取れます。
そのほか、65歳になる前に「繰上げ」で受給する方も受け取れます。
「繰上げ」は、60歳~64歳の間に、年金事務所で請求の手続きをします。(ずっと1号被保険者=国民年金加入者は市役所)
なお、繰上げをすると、繰り上げた月数×0.4%が生涯にわたり本来の年金額から減額されます。
在職老齢年金の仕組みでカットされる額は?
「総報酬月額相当額」と「基本月額」を合計した額が、支給停止調整額を超える場合、超えた額の2分の1に相当する額が、月額として止められます。
「総報酬月額相当額」というのは、会社からもらう給与や賞与のことです。
「総報酬月額相当額」=その月の標準報酬月額+標準賞与額/12
「基本月額」というのは、もらえる老齢厚生年金(特別支給の老齢年金や繰上げ受給も含む)のことです。
「基本月額」=特別支給の老齢厚生年金の額/12 または 老齢厚生年金の額/12
「総報酬月額相当額」+「基本月額」が51万円(2025年度の支給停止調整額)を超えれば支給停止(カット)、越えなければ減額なし(給与・賞与も年金も満額もらえる)となります。
支給停止額(月額)=(総報酬月額相当額+基本月額ー51万円)×1/2
頑張って働いているのになぜ年金がカットされるのか
年金は老後の生活を支える重要な収入源です。多くの方は、年金がなければ老後の生活が成り立たない状況でしょう。
これに対し、老齢年金を受給する御歳でも、現役並みの稼ぎを得る方もいらっしゃいます。こうした方は、年金に依存しなくても十分生活できるはず、したがって、一定程度の年金をカットしても問題ない、ということです。
特に厚生年金受給者は、老齢基礎年金に上乗せして老齢基礎年金を受給するわけで、老齢厚生年金の部分をカットするという仕組みが「在職老齢年金の仕組み」です。
現役世代とのバランスから、一定の賃金を有する高齢者については給付を制限すべき(現役世代の負担に配慮する観点)というのが、この考え方の根底にあります。
働く人の意欲を削がないためには
一方、働いても年金が不利にならないようにすべき(就労を阻害しない観点)という、これとは別な見方もあります。
せっかく働いても、まるでペナルティのように、年金がカットされてしまっては、働かない方がマシという考えを持ってしまう方もいるでしょう。
そのため、2025年度において51万円となっている支給停止調整額をさらに上げる方向で検討が進められています。
ちなみに支給停止調整額の推移は、
2023年度:48万円
2024年度:50万円
2025年度:51万円
と、少しずつ上がってきており、カットされにくくなってきているとも言えます。
そして2026年度からは62万円に改正されようとしています。
そうなれば、「年金がカットされるので働くのを控えよう」という方が減るというのが国の考え方です。
社会全体にとって働き手が増えることは、大きなメリットです。
一方、年金がカットされにくいということなので「年金の財源が減ってしまうのではないか」との懸念も生じます。
これについては、年金の受給年齢を上げることや、今後年金の支給額を減らすことも併せて検討されていくものと考えられます。
まとめ
「在職老齢年金の仕組み」は、
・一定の賃金を有する高齢者については給付を制限すべき(現役世代の負担に配慮する観点)
・働いても年金が不利にならないようにすべき(就労を阻害しない観点)
という2つの相反する要請の中で見直しが行われてきました。
昨今は人口減少に伴う就労人口の減少と、年金財源確保の観点から、
高齢者にもなるべく長く働いてもらい、年金に頼らない自律的な生活を送ってもらいたい
という国の意向が見えてきます。
年金受給年齢が上がり、支給額が減ることは避けられない中、働けるうちはなるべく働くというスタイルが、老後の生活を守るためには必要な考えと言えるでしょう。
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