「減価償却費って、別に現金が出ていくわけじゃないんでしょ?
だったら、わざわざ計上しなくてもいいんじゃないの?」
――これは、中小企業の社長さんからよく聞かれるご質問です。
確かに、減価償却費は実際の支出を伴わない“帳簿上の費用”。ですが、計上しないことで銀行融資や税務対応に不利になることがあるのです。
この記事では、減価償却の基礎から、銀行・税務の観点を交えて「なぜ計上すべきか?」をわかりやすく解説します。
減価償却とは?
まず基本からおさらいしましょう。
工場の機械や営業車、事務所など、何年も使う高額な資産は、購入した年に全額を経費計上することができません。なぜなら、それらは長期的に利益を生む資産だからです。
そこで登場するのが「減価償却」。これは、資産の価値を年数に応じて少しずつ費用として計上する方法です。
たとえば、500万円の機械を10年で償却するなら、毎年50万円を経費にできます。この年間の経費が「減価償却費」です。
減価償却費は「現金が出ていかない費用」
ここがややこしいポイントですが、重要です。
減価償却費は帳簿上の費用ですが、実際には現金の支出はありません。500万円の機械は購入時に現金で支払っています。あとは会計上、毎年50万円ずつ帳簿で費用処理していくイメージです。
だからといって、「現金が出ないなら、償却しなくてもいいのでは?」と思うのは危険です。
「償却しない」という判断が危ない理由
✅ 銀行は「償却しているか」を見ている
融資審査において、銀行は「単なる利益額」だけでなく、「減価償却がしっかり行われているか」も重視しています。
なぜかというと、減価償却は将来の投資を回収する行為とみなされるからです。
もし償却がされていないと、帳簿上は黒字でも、実は回収すべき投資を無視しているだけ…という見え方になります。反対に、償却をしていれば「きちんと投資回収を進めている健全な会社」と評価されます。
✅ キャッシュフローの見え方が悪くなる
もう一つ、銀行が重視するのがキャッシュフローです。
実は減価償却費は、キャッシュフロー上では「加算項目」としてプラスに働きます。なぜなら、現金が出ていかない費用だから。
たとえば、営業利益500万円・減価償却費100万円の会社なら、営業キャッシュフローは600万円です。
逆に償却していなければ、キャッシュが少なく見えてしまい、資金繰りに不安があるように映る可能性もあります。
税務署はどう見る?(別表16の役割)
法人税申告書には「別表16」という書類があります。
これは、各固定資産について、取得金額・耐用年数・償却額・残存簿価を一覧にしたもので、税務署に資産の管理状況を報告する役割を果たします。
ここで注意すべきは、法人税法上、減価償却は「任意償却」とされており、償却しなくても違法ではないという点です。
つまり、償却不足があっても、税務署から「なぜ償却していないのか?」と問い合わせが来ることは基本的にはありません。
<税務申告書の別表16>

ただし、不自然に高額な資産がいつまでも帳簿に残っていたり、毎年償却方針がバラバラだったりすると、
- 恣意的に利益操作していないか?
- 他の経費や資産計上に問題はないか?
といった点で、税務調査時に間接的に注目される可能性はあります。
償却を止めた場合のデメリットまとめ
✔ 銀行融資に不利
→ 表面上の利益は良く見えても、償却不足は「実態のない利益」として評価されがちです。
✔ 税務調査で不自然に映る可能性
→ 別表16との整合性が取れず、調査時に突っ込まれるリスクも。
✔ 会計処理が将来ややこしくなる
→ 償却しなかった資産の簿価が残り、次年度以降の判断が難しくなります。
例外:戦略的な判断もある(ただし銀行には通用しない)
もちろん、状況によっては償却をあえて抑える判断が必要になることもあります。
たとえば、大規模な設備投資を行い、当期の赤字が大きくなりすぎそうな場合などは、節税や利益調整のために一時的に償却を抑えるという選択もあります。
ただし、それを行う際は税理士としっかり相談したうえで、戦略的に判断する必要があります。
そして何より注意すべきは、銀行はその“調整”を見抜いてくるということです。
銀行は「償却引き直し」をしている
銀行は決算書をそのまま信じません。
償却が極端に少ない、または古い資産が多く残っている場合には、「本来あるべき減価償却費」を見積もって、独自に再計算(引き直し)を行います。
つまり、いくら帳簿上の利益をよく見せても、本当の実力(=キャッシュの稼ぐ力)は見抜かれているということです。
まとめ:「償却しない」は通用しない時代
減価償却費は、単なる会計テクニックではなく、
経営の健全性・資金繰りの透明性・銀行や税務署からの信頼に直結する重要な数字です。
もちろん、戦略的に償却を調整する判断が必要な場合もありますが、それはあくまで例外。
多くの会社にとっては、きちんと減価償却を計上することが、将来の融資や信用につながるのです。
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