~民間金融機関との連携強化と企業価値担保の新たな動き~
こんにちは。財務コンサルタント・銀行融資診断士®の本間です。
今回は信用保証協会において新たに創設された支援スキーム「協調支援型特別融資」について解説したいと思います。
はじめに
2025年3月14日、信用保証協会において新たな支援スキーム「協調支援型特別融資」が創設されました。
これは、中小企業の資金繰り支援の仕組みに一歩踏み込んだものであり、民間金融機関との連携強化、そして“企業価値担保”の考え方を反映した新たな制度です。
これまでの保証制度とはどのように違うのか、また今後の融資環境にどのような変化をもたらすのかを解説します。
協調支援型特別融資が生まれた背景
コロナ禍以降、経済環境は急速に変化しました。原材料費の高騰、円安、金利上昇など、中小企業を取り巻く経営環境は厳しさを増しています。
こうした中で、金融機関からの資金調達が思うように進まず、資金繰りに苦労する企業も少なくありません。
従来、信用保証協会は「保証人」として中小企業の融資を支えてきましたが、融資判断の基準は依然として財務内容や担保・保証に依存している面が強く、将来性や事業価値を十分に評価できないという課題がありました。
今回の「協調支援型特別融資」は、こうした課題を解消し、事業の成長可能性に注目した資金供給を促すために設けられた制度です。
制度の概要
民間金融機関との協調が前提
この特別融資は、信用保証協会が単独で動くのではなく、民間金融機関と連携して資金を供給する仕組みです。
金融機関と保証協会が共同で事業性評価や事業計画の妥当性を確認し、保証付き融資を組成します。
保証枠の扱いと実務上のポイント
実際の運用においては、一部プロパー融資を組み合わせるスキームではなく、全額が信用保証協会の保証枠を利用する制度となります。
従って、保証枠を消費する点では従来の保証付き融資と変わりません。
このため「プロパー資金を呼び込みやすい新制度」とまでは言い難い面があります。
ただし、次のようなメリットが期待されています:
- 保証審査の幅を拡大:決算が赤字や債務超過であっても、事業価値や再生計画が評価されれば保証がつきやすくなる。
- 金融機関が前向きに案件化できる:事前に保証協会と協議し、リスクを共有できるため、これまで出せなかった案件が実行可能になる。
- 再生・第二創業の局面で活用しやすい:無形資産や事業モデルを評価材料にできるため、従来より資金調達がしやすくなる。
一方で、
- 保証枠を消費するため、既存借入が多い企業は使いにくい。
- プロパー資金とのハイブリッド効果は現状期待できない。
- 運用開始直後のため、各信用保証協会によって対応がまちまち。
といった課題が残っています。
企業価値担保権の考え方と整合
近年、「企業価値担保権」という新しい担保概念が注目されています。
これは、土地や建物などの物的担保だけでなく、企業が持つ無形資産や将来キャッシュフローを担保のように評価し、融資判断に活かすという考え方です。
協調支援型特別融資は、この考え方を踏まえており、
- 過去の財務データや物的担保だけに依存しない
- 技術力、事業モデル、知的財産、顧客基盤などを含めた総合評価を重視
- 事業再生・成長支援を目的とした柔軟な融資
といった点が特徴です。
従来の保証制度との違い
1.事業性評価重視
従来:決算数値、担保・保証が中心。
新制度:将来キャッシュフローや事業価値を加味。
2.金融機関との協調体制
従来:金融機関が主導、保証協会は後追い。
新制度:金融機関と保証協会が共同で評価・支援。
3.再生企業への資金供給促進
一時的に赤字でも再生計画が妥当なら融資可能。
既存の「経営改善サポート保証」より柔軟性が高い。
中小企業にとってのメリット
1.融資のハードルが下がる
将来性が評価されれば、過去の赤字や担保不足があっても資金調達できる可能性が高まります。
2.事業計画づくりが進む
協調支援型では事業計画が重視されるため、金融機関や保証協会との対話を通じて、計画の精度が上がります。
3.再生・成長局面で使いやすい
既存事業の再構築、新規事業への挑戦、M&Aなど、従来は借入が難しかった局面でも活用が期待できます。
利用にあたってのポイント
- 事業計画の作成が必須
5年程度の売上・利益予測、資金繰り計画、リスク対応策を盛り込むことが望ましいです。 - 金融機関との関係づくりが重要
協調支援型は金融機関の推薦があって初めて動く制度のため、普段から関係を築いておくことが有利です。 - 財務情報の透明性を確保
粉飾や過度な楽観的計画は逆効果です。現状の課題を正直に提示し、改善策を具体化することが評価につながります。
今後の展望
協調支援型特別融資は、まだ始まったばかりの制度ですが、国全体で進められている「企業価値担保権の活用」と同じ方向性を持っています。将来的には、
- 民間金融機関が事業価値を評価できる仕組みの普及
- 無担保・無保証でも、成長企業に資金が回りやすくなる環境づくり
- 地域金融機関の事業性評価力の向上 が進むことで、中小企業の資金調達環境がより柔軟になっていくことが期待されます。
まとめ
「協調支援型特別融資」は、過去の決算数値や担保に縛られない、将来性重視の新しい保証制度です。
ただし、現段階では全額が保証枠を消費するため、「プロパー融資を呼び込む仕組み」とまでは言えません。
とはいえ、保証協会がより前向きな判断をしやすくなることから、資金調達の可能性を広げる制度として、今後の展開が注目されます。
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