~資金需要から黒字化の秘訣まで~
こんにちは。中小企業財務コンサルを専門としております、行政書士・1級FP技能士・銀行融資診断士®の本間です。
今回は「医療クリニック」をテーマに、開業医やこれからクリニック経営を考えている方が押さえておきたい財務面のポイントを解説いたします。
特に、資金需要や決算書の特徴、黒字化するクリニックとそうでないクリニックの違い、さらに金融機関がクリニックをどう見ているかについてもご紹介します。
医療クリニックという業種の特徴
医療クリニックは、地域医療を支える重要な役割を担う一方、一般事業と比べて独特の資金構造を持っています。
- 安定した需要が見込める
医療は生活に不可欠なサービスであるため、患者数は比較的安定しやすい。 - 診療報酬の入金遅延
保険診療の請求から入金までに1~2か月のタイムラグが発生。 - 高額な設備投資が不可避
医療機器や内装に数千万円単位の投資が必要で、定期的な更新費用もかかる。 - 人件費負担が大きい
医師・看護師・事務スタッフなどの人材確保にコストがかかる。
こうした特性を理解したうえで資金計画を立てることが、安定経営の第一歩です。
資金需要(運転資金)
クリニックは、売上があっても手元資金が不足しやすい構造を持っています。
- 人件費の先行負担:給与や社会保険料を毎月先に支払う必要がある
- 診療報酬の入金遅延:請求から入金まで1~2か月かかる
- 薬品・消耗品費の現金払い:仕入れ先への即時支払いが多い
目安として、固定費の2~3か月分を手元資金として確保しておくと、資金ショートのリスクが大きく減ります。
資金需要(設備資金)
- 開業時の初期投資:内装工事、医療機器、ITシステム、広告費などで3,000万~1億円規模が必要
- 定期的な医療機器更新:5~10年ごとに数百万円~数千万円
- サービス拡大時の投資:美容医療やリハビリ設備導入で追加数百万~数千万円
これらは自己資金だけに頼らず、銀行融資・リースの活用を計画的に行うことが重要です。
決算書の特徴
- 売上は安定しやすいが、地域競争や感染症流行で変動もある
- 売掛金残高が多くなりやすい(診療報酬の未入金分)
- 固定費比率が高い(人件費と家賃で50~70%)
- 減価償却費が利益を圧迫(設備投資負担が重い)
留意すべき財務指標
医療クリニックの財務分析では、以下の指標を押さえることが重要です。
1.損益分岐点比率(目安:85%以下)
- 売上高に対する損益分岐点売上高の割合を示す指標。
- 85%を下回っていれば、売上が多少落ちても黒字を維持しやすい状態。
- 85%を超えると固定費負担が重く、売上が少しでも減少すると赤字に転落しやすくなる。
- 損益分岐点比率が高いというのは、売上のうち、固定費や変動費を回収するために必要な割合が高い状態で、売上のほとんどが費用の回収に消えてしまい、純利益が出にくくなります。
2.固定費比率(目安:60%以下)
- 売上高に占める固定費の割合を示す指標。
- 固定費には、人件費(固定部分)、家賃、減価償却費、水道光熱費(固定部分)などが含まれる。
- 固定費比率が高いほど、売上減少に対する損益の変動幅が大きくなり、赤字リスクが高まる。
- 目安は60%以下が望ましく、70%を超える場合は人件費や家賃などの固定費構造の見直しが必要。
3.診療報酬回収日数(目安:60日以内)
- 請求から入金までの日数。長引くと資金繰りが不安定に。
4.労働分配率(目安:40~50%)
- 人件費÷売上。
- 50%を超えると利益確保が難しくなる。
5.設備投資負担率(目安:15%以下)
- (減価償却費+リース料)÷売上。投資過多は資金圧迫要因。
6.営業キャッシュフロー比率(目安:売上の10%以上)
- 営業活動による現金収支がプラスで安定しているか。
業界内黒字企業の特徴
- 患者数が安定・増加し、紹介や口コミが強い
- レセプト請求が正確で、入金サイクルが安定
- 過剰人員を抱えず適正配置
- 設備投資は費用対効果を検討して実行
- 常に2~3か月分以上の手元資金を確保
業界内倒産企業の特徴
- 患者数減少に対応できず売上が減少
- 高額機器導入が採算割れ
- 人件費比率が過大
- 資金繰り管理が甘く、入金待ちで資金ショート
- 金融機関への相談が遅れ、追加融資を受けられず
業界特有の課題
- 診療報酬制度改定の影響が大きい
- 固定費の高さによる赤字リスク
- 院長個人の稼働時間や評判に売上が依存
- 人材確保難と後継者不足
- 感染症流行など外部要因で患者数が急減するリスク
金融機関がクリニックをどう評価するか
銀行などの金融機関は、医療クリニックに対して以下の観点で融資可否や条件を判断します。
1.安定性
- 地域の医療需要が高いか。
- 患者数の推移が安定または増加しているか。
2.収益性
- 営業利益率10%以上が目安。
- 労働分配率や設備投資負担率が適正か。
3.資金繰り安全性
- 療報酬回収日数が長すぎないか。
- 運転資金に余裕があるか。
4.財務健全性
- 借入金の返済年数が10年以内に収まるか。
- 自己資本比率が20%以上あるか。
5.経営者の力量
- 経営管理能力、診療報酬請求精度、スタッフマネジメントが適正か。
金融機関は「黒字=安全」とは見ず、将来的に安定した返済能力があるかどうかを重視します。
そのため、資金計画とともに決算書や事業計画の質を高めることが、好条件での融資につながります。
まとめ
医療クリニックは、運転資金の先行負担や高額な設備投資など、資金繰りが厳しくなりやすい業種です。
黒字経営を続けるためには、
- 診療報酬の入金遅延を踏まえた資金管理
- 固定費・人件費の最適化
- 設備投資の採算性チェック
- 手元資金の余裕確保
- 金融機関に説明できる財務資料の整備
を意識することが重要です。これらを実行することで、安定経営と良好な銀行評価を両立できます。
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