銀行は工場や本社などの事業用固定資産を簿価ベースで評価します。
一方、担保資産や遊休資産は時価評価です。
含み損を抱える固定資産を売却すれば節税効果はありますが、銀行評価への影響や説明の仕方を踏まえて判断することが大切です。
帳簿上の赤字と資金繰りの違いを整理して解説します。
はじめに
経営者の皆さまは、「含み損を抱えている固定資産をどう扱うべきか」が切実な課題となるケースも多いのではないでしょうか。
たとえば、工場の敷地や建物、かつては使っていたものの今は遊休化している土地などを抱えている場合です。
売却すれば帳簿価額と実際の売却価格との差額によって損失が生じます。
その損失は節税効果をもたらす一方で、「銀行の評価が下がるのではないか」という懸念もつきまといます。
固定資産の扱いは、決算対策や節税だけでなく、金融機関との関係や資金繰りにも直結する重要なテーマです。
本記事では、銀行が資産をどう見ているのか、売却による節税効果がどう働くのかを整理し、経営判断に役立つ視点をご紹介します。
1. 銀行は事業用固定資産を簿価で見る
銀行にもよりますが、工場や本社などの事業用の固定資産は、基本的には簿価ベースで評価します。
これらは企業が売上や利益を生み出すための事業基盤であり、売却して現金化する前提ではないからです。
そのため、含み損を抱えていても、それだけで銀行評価が下がることはありません。
貸借対照表に簿価で計上されていること自体が「事業基盤の安定感」として見られます。
2. 担保資産は時価で評価される
ただし、その資産が銀行の担保に入っている場合は事情が異なります。
担保は「万一のときに売却して回収する」ためのものなので、時価(実勢価格や路線価)ベースで評価されます。
簿価1億円の土地でも実勢価格が5,000万円なら、銀行が見る担保価値も5,000万円程度にとどまります。
つまり含み損は、銀行にとってすでに織り込み済みなのです。
3. 遊休資産・非事業用資産は時価評価
一方で、工場や店舗に使われていない土地や建物、投資用不動産は、事業基盤ではないため時価評価が基本です。
簿価が高くても実際に売れなければ担保力は小さいと見られます。
こうした資産を売却して現金化し、借入返済や運転資金に充てれば「不要資産の整理」として銀行からプラスに評価されることもあります。
4. 売却損はキャッシュアウトを伴わない節税効果
固定資産を売却したとき、簿価と売却価格の差額は「売却損」として特別損失に計上されます。
この損失は帳簿上の赤字要因にはなりますが、実際に支出が発生するわけではありません。
むしろ売却代金が入金されるうえ、法人税の支払いも減少します。
つまり「帳簿上は赤字でも、資金繰りは改善する」というケースがあり得ます。
5. 担保資産は自由に売却できない
注意が必要なのは、担保に入っている資産は会社が自由に売却できないことです。
銀行の承諾を得て抵当権を外す必要があり、その際は売却代金を借入金の返済に充てることが一般的です。
したがって担保資産を節税目的で動かす余地は小さく、実務上は「返済とセットの資産整理」として考えるのが現実的です。
6. 銀行評価と節税効果の整理
含み損資産の売却を検討するときは、銀行評価と節税効果をセットで考えることが大切です。
資産の種類と担保の有無によって結論は変わります。
| 区分 | 銀行の見方 | 売却の自由度 | 節税効果 | 銀行説明のポイント |
|---|---|---|---|---|
| 事業用固定資産(担保なし) | 簿価で事業基盤評価 | 売却可(法的制約なし) ※事業影響の精査が前提 | ○(売却損で課税所得減) | 「事業への影響なし」「税負担軽減でキャッシュ残る」を事前説明 |
| 事業用固定資産(担保あり) | 時価で担保評価 | 売却制限あり(承諾要) | △(返済充当で手元に残りにくい) | 「担保整理+返済による財務改善」を説明 |
| 遊休資産・非事業用資産 | 時価評価(担保力小さい) | 売却可(自由) | ◎(キャッシュ確保+節税) | 「不要資産整理」「資金繰り安定化」を説明 |
まとめ
含み損を抱える固定資産の売却は、キャッシュアウトを伴わない有効な節税策です。
ただし銀行の評価は資産の用途と担保の有無によって大きく異なります。
- 事業用固定資産(担保なし)は簿価評価 → 売却=即マイナス評価ではない。事業基盤への影響を精査し、銀行へきちんと説明することが前提。
- 担保資産は時価評価 → 銀行承諾が必須。
- 遊休資産は時価評価 → 売却でキャッシュ確保+節税が可能。
大切なのは、節税効果を銀行にきちんと説明し、理解を得ることです。
そうすることで「赤字に見える売却」も、財務改善の一環として前向きに受け止められます。
社長が気にされる“銀行の顔色”は、実は杞憂であるケースも少なくありません。
ご相談はこちらから
最後までお読みいただきありがとうございました。
当事務所が、社長の悩みに対する壁打ち相手になって、貴社の発展を全力でサポートいたします。
相談は無料ですので、お気軽にご連絡ください。
資金繰り表無料ダウンロード
WEB特典無料ダウンロードとして、「実績資金繰り表フォーマット」をダウンロードいただけます。
