認知症発症時に資産が凍結されると、家族は生活費や介護費を自由に使えなくなります。
成年後見制度・家族信託・変額介護保険を比較し、費用・労力・自由度を整理。
さらに「なぜ変額保険なのか(定額との違い)」も詳しく解説します。
はじめに
日本の高齢社会で深刻なテーマが「認知症による資産凍結リスク」です。
もし親が認知症になり、子どもがキャッシュカードで預金を引き出すと、たとえ親のためでも窃盗罪や横領罪に問われるおそれがあります。
つまり、「いざとなったら子どもが何とかしてくれる」という考えは通用しません。
介護費や生活費を確実に使えるようにするには、制度や仕組みをあらかじめ整えておく必要があります。
代表的な備え方は次の3つです。
- 成年後見制度(法定後見・任意後見)
- 家族信託
- 変額介護保険
本記事では、それぞれの特徴とコスト・労力を整理し、最後に「なぜ変額保険を選ぶのか」を解説します。
1. 成年後見制度
1-1. 法定後見:認知症発症後は「一択」
認知症を発症した場合、利用できるのは法定後見制度のみです。
家庭裁判所が後見人を選任し、弁護士・司法書士・介護福祉士などの専門職が担います。
本人や家族が後見人を選ぶことはできません。
1-2. 任意後見:発症前に契約しておく
元気なうちに公正証書で契約し、子などを後見人に指定する仕組みです。
ただし、家庭裁判所は必ず後見監督人を選任し、月3万円前後の監督報酬が死亡まで発生します。
1-3. 共通の特徴
- 申立費用:数万〜20万円
- 利用開始まで:約3か月
- ランニングコスト:月2〜6万円
- 支出は裁判所の監督下に置かれ、自由度は低い
2. 家族信託
2-1. 制度の概要
本人が元気なうちに、信頼できる家族に資産の管理を託す制度です。
預金・証券・不動産などを対象にできます。
2-2. コスト
- 初期費用:契約、公正証書、不動産登記で数十万円
- ランニングコスト:基本不要
2-3. 報告義務と実務負担
受託者には次の義務が課されます。
- 年1回以上の報告義務:信託財産の収支を受益者(通常は委託者本人)に報告。
本人が認知症発症後に報告の実効性が薄れるため、契約時に受益者代理人を指定するのが一般的です。 - 信託帳簿の作成:貸借対照表や損益計算書形式で収支を記録。
- 信託事務処理書類の整備:預貯金なら現金出納帳、不動産なら確定申告用資料を準備。
- 保管義務:信託終了まで帳簿・書類を保存。
2-4. 家族がいない場合
家族がいない、あるいは受託者が1人しかいない場合もあります。
この場合、弁護士・司法書士など専門職を受益者代理人や信託監督人に指定するのが一般的です。
例えば、
- 独身で子どもがいない人 → 専門職を受託者や監督人にするケース
- 子が一人だけの人 → 子を受託者にし、専門職を受益者代理人にして二重チェック体制をとるケース
といった工夫で、客観性と安心感を担保できます。
2-5. 特徴とデメリット
- 高い自由度で柔軟に設計可能
- 反面、受託者や代理人に重い事務負担がかかる
- 親族同士の仲があまり良くない場合、一人の受託者に財産を集中させることでトラブルの原因になる可能性がある
3. 変額介護保険
3-1. 制度の概要
終身型の変額保険に「認知症時の資産凍結リスク回避」を加えた商品です。
契約時に指定代理請求人を定め、認知症発症時にはその人の口座へ非課税で保険金が支払われる仕組みです。
3-2. メリット
- 家庭裁判所の申立・監督人が不要
- 帳簿作成や報告義務がない
- 保険金の使途に制限がなく自由
3-3. デメリット
- 保険関係費用:保険料の約2割
- 解約時の現金化で一時所得課税
- 運用成果によって受取額は変動
4. コストと労力で比較
制度を「初期コスト」「ランニングコスト」「労力」「自由度」「発動時期」で整理すると次の通りです。
| 項目 | 法定後見 | 任意後見 | 家族信託 | 変額介護保険 |
|---|---|---|---|---|
| 初期コスト | 申立費用 数万〜20万円 | 契約+公証役場費用 数十万円 | 契約+登記費用 数十万円 | 保険加入時に手数料含む |
| ランニングコス | 月2〜6万円 | 後見監督人へ月3万円前後 | 年1報告作成・申告の手間 | 保険関係費用(保険料の約2割) |
| 労力 | 中 | 高 監督人が常時関与 | 高 受託者に重い事務負担 | なし |
| 自由度 | 低い(支出制限) | 低い(監督人介在) | 高い(設計自由) | 高い(使途自由) |
| 発動時期 | 発症後申立→3か月後 | 発症前に契約 | 契約と同時 ただし、不動産などは契約+登記 | 契約と同時 |
文章で整理すると、
- 成年後見制度=資金コスト・労力コストともに重い
- 家族信託=資金コストは中程度だが、労力コストは重い
- 変額介護保険=資金コスト・労力コストともに軽い
という位置づけになります。
5. なぜ「変額保険」なのか(定額保険との違い)
ここで「なぜ定額型ではなく変額型なのか」という疑問が出てきます。
5-1. 保険料(掛金)が抑えられる
同じ保障額でも、変額保険は一般に定額型より掛金が安く済むことが多いです。
長期にわたる負担を抑えられ、現役世代の家計にも優しい設計です。
5-2. 資産運用機能を持つ
保険料の一部が投資信託で運用され、将来的にリターンが期待できます。
インフレによるお金の価値下落をある程度相殺できる点も利点です。
5-3. 終身型で認知症リスクに対応
認知症対応の介護保険は「終身型」が条件。
変額保険は終身設計の商品が多く、長期的なリスクに備えやすいのが特徴です。
5-4. 指定代理請求人制度との相性
認知症発症時に本人に代わって保険金を受け取る「指定代理請求人」を設定でき、家庭裁判所の関与なく資金を動かせます。
これは成年後見や家族信託よりシンプルで迅速です。
6. 結論:子世代に資産を残すための選択肢
- 成年後見制度:信頼性は高いが費用・制約・労力が重い
- 家族信託:自由度は高いが受託者や代理人に事務負担が大きく、親族間のトラブルリスクもある
- 変額介護保険:コスト・労力ともに軽く、代理請求人制度により資産凍結リスクをシンプルに回避できる
特に「認知症時の介護費用を子世代に確実に残す」という目的に絞れば、変額介護保険は実効性の高い選択肢といえるでしょう。
ご相談ください
この記事で紹介した制度は、それぞれにメリットとデメリットがあります。
「自分や家族にはどの制度が合うのか?」は、資産状況や家族構成、親族関係のあり方によって答えが変わります。
当事務所では、財務コンサルタントとしての経験を活かし、後見制度・家族信託・保険商品を比較検討したうえで最適な備え方をご提案しています。
将来の資産凍結リスクに不安を感じている方は、どうぞお気軽にご相談ください。
