銀行は決算書の数字をそのまま信じていません。
帳簿上の金額を実態に合わせて修正し、「実態B/S」を作って融資判断をしています。
この記事では、銀行がどのように資産や負債を見直しているのかを、経営者の立場から解説します。
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銀行が作る「実態B/S」とは
決算書に記載されている数字は、あくまで会計上のルールに沿って作られた「帳簿値」です。
しかし銀行は、融資の可否を判断する際に「この会社は本当にお金を返せるか？」を見ます。
そのため、提出された決算書をもとに実際の経済価値に合わせて修正した貸借対照表＝実態B/S（実態バランスシート）を独自に作成します。
つまり、銀行はあなたの会社の数字を“信じる”のではなく、“検証する”のです。
銀行が注目する10の修正ポイント
以下は、銀行が融資審査の際に重点的にチェックし、実態B/Sに修正している代表的な項目です。
それぞれのポイントを経営者視点で整理しておきましょう。
（1）現金
銀行は面談や審査の際に、
「この現金はどこに保管されていますか？」
「毎月どのくらいの残高で動いていますか？」
といった質問で現金の実在性を確かめてきます。
現金は少なすぎても多すぎても疑われる科目です。
残高が極端に少ないと資金繰りの苦しさを、
逆に1,000万円を超えるような多額の現金は「見せ金では？」と判断されることもあります。
一般的には、月商の1〜2割程度（例：月商1,000万円なら現金100〜200万円）が自然な範囲。
帳簿と手元の実残を照合し、乖離があれば実際にある金額を基準に修正します。
（2）売掛金
銀行は、売掛金の回収実績と滞留期間を細かく見ています。
「回収が遅れている」「長期間動いていない」売掛金は、実質的に回収不能と判断され、資産から除外されることもあります。
経営者としては、
- 3か月以上の未回収先を定期的に洗い出す
- 回収不能の見込みがある場合は貸倒処理しておく
といった対応が、実態B/Sの信頼性を高めます。
（3）棚卸資産（在庫）
銀行は在庫を「お金に変えられる資産」として見るため、
不良在庫や滞留在庫が多いと実質的な資産価値が低いと判断します。
「在庫が多い＝安心」ではなく、「回転率が悪い＝資金が滞留している」と見られる点に注意が必要です。
定期的に不良・陳腐化在庫を洗い出し、時価評価に近づけることが大切です。
（4）貸付金・立替金・未収金
銀行はこの項目を特に厳しく見ます。
なぜなら、経営者や関係会社への貸付金が多い会社ほど資金繰りが不透明だからです。
「実際に返済される見込みがあるか？」
「契約書や返済計画があるか？」
がチェックされます。
返済のあてがないものは、実態B/Sでは資産から除外（マイナス修正）されます。
（5）固定資産（建物・機械設備など）
固定資産は帳簿上の金額と、実際の価値が大きくズレやすい項目です。
銀行は、
「減価償却が適切に行われているか」
「遊休設備や老朽化した資産が含まれていないか」
を確認し、過大評価分をマイナス修正します。
とくに使用していない設備を多く抱えていると、“資産”ではなく“負担”と見なされる点に注意が必要です。
（6）土地
土地は帳簿上、取得時の原価で記録されていますが、銀行は時価ベースで評価します。
相場が上がっていればプラス修正されますが、下落していればマイナス修正されることもあります。
また、売却できない土地（分譲できない・借地など）は実質的に担保価値がないと判断されることもあります。
（7）投資有価証券
銀行は、上場株式よりも非上場株式・関係会社株式の評価を厳しく見ます。
これらは市場性が乏しく、換金性が低いため、実態B/Sでは実質的な評価額に引き下げて算入します。
関係会社が赤字の場合、その株式は「資産性がない」と判断されることもあります。
（8）会員権
ゴルフ会員権やリゾート会員権などは、一見資産に見えても、銀行からは換金性のない資産とみなされます。
実際の査定では、市場で流通しているものでなければゼロ評価が基本です。
会員権を「資産」として残しておくよりも、実態B/S上は思い切って全額マイナス修正する方が実態を正しく示せます。
（9）繰延資産
開業費・開発費・営業権などの繰延資産は、税務上は資産計上できても、銀行の目線ではすでに費用化すべきものです。
将来の収益に寄与しないと判断されれば、実態B/S上はゼロ評価となります。
この項目が多い場合、
「過去の赤字を資産で隠しているのでは？」と疑われることもあるため注意が必要です。
（10）負債の部
銀行は、決算書に載っていない簿外債務がないかを確認します。
代表的なものは、
- 未払残業代・賞与
- 外注費の未計上分
- リース債務・保証債務 などです。
これらを加算し、実際に負っている負債総額を算出します。
簿外債務が見つかると、実態B/S上は負債が増加（＝純資産が減少）します。
まとめ｜銀行は「実際に返せる会社」かを見ている
銀行が実態B/Sを作る目的は、数字を疑うためではなく、現実を正確に把握するためです。
帳簿の体裁を整えるよりも、
「現金は実在しているか」「売掛金は回収できるか」「在庫は換金できるか」――
この視点で見直したときに、初めて“本当の財務力”が見えてきます。
経営者自身がこの目線を持って実態B/Sを整えることは、銀行との信頼関係を築くうえで何よりの「融資対策」になります。
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実態B/Sを整えるというのは、数字をいじることではありません。
自社の「本当の姿」を自分で把握し、銀行と同じ地図で話せるようにすることです。
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