在庫(棚卸資産)は、事業を回すための源泉であると同時に、銀行が最も慎重に、時には疑いの目を持ってチェックする項目でもあります。
在庫が多いという事実が、融資判断にどのような影響を及ぼすのか。
評価が分かれるポイントと、実務上の対応策について整理します。
この記事で分かること
- 在庫が多い企業に対する銀行の基本的な視点
- 銀行が警戒する2つの大きなリスク
- 評価が下がるケースと、正当に評価されるケースの違い
- 銀行に納得してもらうための実務対応
はじめに
決算書の貸借対照表において、棚卸資産は資産の部に計上されます。
しかし、銀行員は、棚卸資産を現金のようにそのまま評価するわけではなく、内容を慎重に見ます。
なぜなら、在庫は現金とは異なり、粉飾決算で数字をごまかしやすい科目であり、将来本当にその価値で売れるのかという不確実性が常につきまとうからです。
在庫の多さ=悪ではないが、説明責任が伴う
銀行の視点は一貫しています。
「この在庫は、将来的に外部に販売することで、確実にキャッシュ(現金)に変わるものなのか」
この問いに対して、客観的かつ合理的な裏付けがない場合、銀行の評価は厳しくならざるを得ません。
銀行が警戒する2つのポイント
在庫の水準が業界平均に比べて明らかに大きい場合、銀行は主に以下の2点を疑います。
1.過大な在庫を抱えていないか(滞留・陳腐化リスク)
まず疑われるのは、売れ残りのリスクです。
- 需要を見込んで仕入れたものの、売れずに残っていないか
- 長期間の保管により、商品が陳腐化していないか
- 保管費用や、在庫に寝ている資金の金利負担が経営を圧迫していないか
銀行実務では、効率性を測る棚卸資産回転期間という指標が重視されます。
これは、棚卸資産の金額を売上高で割り、365を掛けて算出する日数で判断されます。
黒字企業における業種別の平均的な目安は以下の通りです。
- 建設業:40日
- 製造業:35日
- 小売業:26日
- 卸売業:22日
これらの日数を大幅に超えている場合、銀行は「本来は資産価値のない在庫が含まれている」とみなし、その分を差し引いて評価します。
2. 粉飾決算により利益を水増ししていないか
もう一つ、銀行が非常に警戒するのが利益操作の可能性です。
在庫を実際よりも多く計上すれば、その分だけ利益が増えて見えるため、銀行は「本当にそれだけの現物があるのか」を厳しくチェックします。
在庫が不自然に大きいことに気づくと、融資は受けにくくなります。
在庫が資金繰りを圧迫する構造
過大な在庫は、単に売れないことだけが問題ではありません。
在庫を仕入れるために使った資金を現金化できないため、借入金の返済が滞り、利息負担だけが増えていくという悪循環を招きます。
実務上、在庫を処分しようとすれば、帳簿上の価格より安く売るか廃棄するしかなく、それは赤字の表面化を意味します。
しかし、これを恐れて放置し続けることが、さらなる資金繰りの悪化を招くのです。
評価が分かれる分岐点
銀行評価が厳しくなるのは、以下のような状況です。
- 売上の伸び以上に在庫が増え続け、回転期間が長期化している
- 不自然な在庫の積み増しに対し、合理的な説明ができない
- 実態のない在庫を計上し続けている
一方で、一時的に在庫が多くても、それが季節要因や戦略的な理由に基づき、書面で明確に説明できるのであれば、銀行の理解を得ることは可能です。
銀行の信頼を損なわないための実務対応
銀行と良好な関係を保つために、以下の対応を検討してください。
◆ 滞留在庫の速やかな処理
価値が低下した在庫をいつまでも帳簿に残しておくことは、不健全な決算書と見なされます。処分によって赤字が出たとしても、財務をスリムにする前向きな行動として評価されることもあります。
◆ 在庫処分の損失は区分して説明する
在庫処分による損失は、その性質に応じて売上原価や販売費及び一般管理費、特別損失などで処理されます。
重要なのは処理区分そのものよりも、本業の収益力と切り分けて説明できるかどうかです。
銀行は営業利益・経常利益を重視するため、一時的な在庫処分による損失については、以下の点を整理し、説明することが重要です。
- なぜ発生したのか
- 今後も継続するのか
- 本業の収益力に影響はあるのか
◆ 銀行にあらかじめ書面で説明する
在庫処分の実施や、在庫が増える理由については、事後報告ではなく事前に説明することが重要です。
「長期滞留していた不良在庫を処分し、財務体質を健全化する」といった前向きな理由を、
口頭ではなく書面で正確に伝えることで、銀行の評価は変わります。
まとめ
在庫が多いことそのものが、直ちに融資不可能を意味するわけではありません。
銀行が見ているのは、その在庫に裏付けがあるのか、そして経営者が実態を正しく把握し、管理できているかです。
不透明な在庫はリスクですが、適切に説明・処理された在庫管理は、企業の誠実さを評価する指標にもなります。
一度、自社の在庫水準を業界平均と照らし合わせ、銀行の視点でチェックしてみる価値は十分にあります。
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