この記事で分かること
- 決算直前に現金を増やすメリットと、B/Sに残る財務上の足跡
- 借入金月商倍率をはじめとする、銀行審査で見られる指標の相対的な捉え方
- 銀行の「組織としての論理」を理解し、味方につけるリレーション構築術
- この手法を検討すべき企業と、控えるべき企業の判断基準
はじめに
決算期が近づくと、多くの経営者が「いかに決算書を整え、銀行からの信頼を確かなものにするか」に知恵を絞ります。
その際によく検討されるのが、「当座貸越などの枠を使い、決算期末にあえて借入を行い、預金残高を厚く見せる」という手法です。
手元のキャッシュを増やすこの動きには、戦略的な利点がある一方で、財務指標を変化させる側面も持ち合わせています。
今回は、この手法が財務内容にどのような影響を与えるのか。
そして、銀行の組織的な背景をどう理解し、自社の成長につなげるべきかを整理します。
貸借対照表の左右は「セット」で動く
決算書、特に貸借対照表(B/S)を読み解く際、現金が増えるという行為は、必ず対となる負債(借入金)の増加を伴います。
B/Sを俯瞰する際、左側(資産)と右側(負債・純資産)は常に連動しています。
銀行側はこの「左右のバランス」から、その資金がどのような経緯で調達され、現在の形になっているかを注視しています。
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決算直前に預金が急増し、同時に短期借入金が同額程度計上されていれば、それが一時的な資金調達であることは推測されます。
現金を増やすことで手元流動性は向上しますが、同時に借入金という足跡も残ります。
大切なのは、現金を増やすこと自体が目的ではなく、その結果としてB/S全体の形がどう変わるかを把握しておくことです。
指標は「点」ではなく「面」で捉える
決算直前の借入において、よく議論に上がるのが「借入金月商倍率」への影響です。
これは借入残高が月商の何倍にあたるかを示す指標で、銀行が融資判断の際に参考にする項目の一つです。
一般的な目安として、3ヶ月以内が適正、6ヶ月を超えると注意が必要な水準と言われます。
例えば、月商1,000万円の企業が1,000万円を借り入れれば、この倍率は1.0上昇します。
しかし、銀行は一つの指標だけで会社を判断することはありません。
借入金月商倍率だけでなく、利益から借入を何年で返せるかを示す「債務償還年数」や、
キャッシュフローの状況、実態的な自己資本の厚みなど、複数の指標をセットで評価します。
今回のような一時的な借入によって、借入金月商倍率が1.0変動したとしても、
それが資金繰りの悪化によるものか、あるいは戦略的なリレーション維持のためなのか、背景を含めて説明できる準備をしておくことが重要です。
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銀行の「組織としての論理」を戦略的に活用する
この手法を検討する際、銀行の担当者から借入を勧められることもあるでしょう。
これは、銀行側にも「融資残高」や「預金残高」を積み上げたいという期末特有のニーズが存在するためです。
ここで理解しておきたいのは、銀行も一つの組織であり、時期によって優先すべき目標があるという点です。
担当者の提案を、自社の財務を無視した押し売りと対立的に捉えるのではなく、
銀行側のニーズを理解した上で、自社にメリットがある形で応えるという視点が、健全なリレーション構築につながります。
例えば、銀行の期末方針や営業上のタイミングを理解したうえで、自社にもメリットがある形で資金取引を設計する。
あえて利息という名の戦略的コストを支払って貸し借りの実績を作ることは、
将来的に本当に資金が必要な局面で、スムーズな協力体制を得られる土壌を耕すことにもなります。
また、当座貸越枠は利用実績の有無だけでなく、業況や資金使途、取引全体を踏まえて見直されることがあります。
いざという時の生命線を維持するために、決算期に合わせて枠を動かすという判断は、高度なリスクマネジメントと言えます。
この手法を「検討すべき会社」と「控えるべき会社」
決算直前の借入は、自社の状況によってその是非が明確に分かれます。
◆ 検討の余地があるケース
- 既に銀行と良好な関係があり、さらにリレーションを深めたい場合
- 当座貸越の枠を維持し、将来の急な資金ニーズに備えたい場合
- 財務指標に余裕があり、借入金月商倍率が1.0程度上昇しても、審査に大きな影響を与えない場合
◆ 慎重に判断すべきケース
- 既に借入過多の状態で、わずかな指標悪化が審査の合否に直結する場合
- 直近の利益やキャッシュフローが弱く、返済能力に懸念がある場合
- 過去にリスケジュールや条件変更の履歴があり、健全性の回復を最優先すべき場合
自社のステージを見極め、メリットとリスクを天秤にかけることが、生きた財務設計の第一歩となります。
まとめ
決算直前に借入を行い預金を増やすことは、単なる見栄えの操作ではありません。
それは、銀行との関係維持というリレーションシップ戦略と、指標への影響という財務リスクをどうバランスさせるかという設計の問題です。
預金が増えればひとまず安心という感覚に頼るのではなく、
自社の各指標がどう変化し、それが将来の融資に影響しない範囲であるかを事前にシミュレーションすることが不可欠です。
B/Sの左右を俯瞰し、根拠に基づいた判断を行ってこそ、その借入は会社を守り、成長させるための意味のある一手となります。
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