はじめに
現在、多くの会社において「人が足りない」という課題は非常に深刻です。
求人広告を出しても全く応募が来ない、あるいは苦労して採用できてもすぐに辞めてしまうといった悪循環は、社会全体の労働力不足を背景に大きな問題となっています。
しかし、目の前の人手不足への対応に追われる今だからこそ、一度冷静に立ち戻って考えてみるべき論点があります。
それは、「本当に今すぐ人を増やすことだけが、会社を維持するための解決策なのだろうか」という疑問です。
もちろん、業務の拡大や急な欠員によって人員を補充しなければならない局面は確実に存在します。
ですが、莫大な採用コストや人件費を投じる前に、
まずは会社の経営状態を表す重要な指標を確認してみること
が、その後の明暗を分けます。
それが、1人当たり生産性という視点です。
売上だけでは会社の実力は分からない
会社の業績を評価するとき、どうしても売上高の大きさに目を奪われがちです。
しかし、売上という数字だけでは、会社が持っている本当の実力や組織の効率性までを見抜くことはできません。
例えば、年間売上高が同じ1億円の会社が2社あると仮定します。
一方はわずか5人の従業員でその売上を上げており、もう一方は10人の従業員を抱えて同じ売上を確保しています。
これを従業員1人当たりに換算してみると、その差は非常に明確になります。
前者の会社は1人あたり2,000万円の売上を生み出しているのに対し、後者の会社は1人あたり1,000万円にとどまっているということです。
扱う商品や業種、ビジネスモデルによって適正な水準はそれぞれ異なりますが、
同じ規模の売上を達成するために必要な人数が少なければ少ないほど、その組織は効率的に機能している、つまり生産性が高いと判断できます。
会社が持つ本当の底力は、全体の売上規模を眺めているだけでは決して見えてこないのです。
なぜ生産性が重要なのか
なぜ今、これほどまでに生産性の向上が叫ばれているのでしょうか。
理由は、1人当たりの生産性が高まることによって初めて、会社に健全な資金の循環が生まれるからです。
生産性が向上すれば、手元に残る利益が着実に増えていきます。
利益が増えるからこそ、従業員の給与を無理なく引き上げることが可能になり、
さらに優秀な人材を獲得するための採用活動や、業務を効率化するための設備投資、システム導入にも資金を回せるようになります。
逆に、生産性が低い状態のまま慢性的な人手不足感から人を増やしてしまうと、
現場は忙しく稼働しているのに会社全体の利益が全く増えず、給与も上げられないという状況に陥ります。
そればかりか、増えた人件費が重くのしかかり、気づけば資金繰りが急激に悪化するという事態も招きかねません。
昨今は社会全体で賃上げの流れが加速していますが、原資となる生産性の向上が伴わない無理な賃上げは、会社の体力をただ削ぎ落とすだけに終わってしまいます。
まずは1人当たりが生み出す価値をしっかりと高め、
その結果として生まれた余裕をもとに賃上げを実現していくという、正しい順番を意識することが大切です。
社長がまず確認したい数字
自社の生産性を正確に把握するために、専門的な経営分析や難しいシミュレーションを行う必要はありません。
まずは次の計算をしてみてください。
売上高 ÷ 従業員数
です。
さらに一歩踏み込むなら、
粗利益(売上総利益)÷ 従業員数
も確認してみましょう。
売上高は外部環境や仕入価格の変動に左右されやすい側面がありますが、
粗利益をベースに算出することで、会社が実際に自社の中で生み出した純粋な付加価値に近い数字を測定できます。
これらの計算を毎年の決算ごとに継続して行い、数字の推移を追いかけていくと、組織のリアルな変化が見えてきます。
- 人員を増やしたことに見合うだけの成果がきちんと上がっているか
- 売上は伸びていても粗利益率が低下して効率の悪い経営になっていないか
- 長期的にお金を残せる組織体質へと改善しているかどうか
を、定量的なデータとして把握できるようになります。
生産性向上は「頑張ること」ではない
生産性の向上という言葉を耳にすると、
現場の従業員に対して
「もっと必死に働いてくれ」
「労働時間を増やして気合でカバーしろ」
といった、精神論や無理な負担を強いるイメージを持つ方もいるかもしれません。
しかし、本質的な生産性の向上とはそのような義務感や根性論とは真逆のものです。
本当の生産性向上とは、現場が汗水たらして頑張る量を増やすことではなく、
業務の中に潜む無駄やストレスを徹底的に取り除くことにあります。
例えば、
- 同じ内容を複数の書類やシステムに二重入力している無駄な作業をやめること
- 紙による管理や複雑な承認手続きを減らすこと
- AIや最新のITツールを取り入れて単純作業を自動化すること
などは、すべて立派な生産性向上です。
さらに言えば、手間の割に利益の薄い取引や業務を思い切って見直し、自社の強みが最も活きる得意分野に経営資源を集中させることも含まれます。
大切なのは、今いるメンバーや限られた人数のままで、これまで以上の成果や高い価値をスムーズに生み出せるような、仕組みと環境を設計することです。
中小企業が意識したい指標
豊富な資金力や潤沢な人材を抱える大企業であれば、大量の経営資源を投入することで力技の成長を描くことも可能です。
しかし、ヒト・モノ・カネという経営資源が限られている中小企業こそ、この1人当たり生産性という指標が会社を守る生命線になります。
従業員数が何人いるかという規模の拡大を追い求めるよりも、
今いる1人ひとりがどれだけ付加価値の高い仕事に関われているかという質の追求こそが、これからの時代を生き抜く中小企業の大きな武器になります。
新たに求人広告を出して採用市場に飛び込む前に、まずは今いるメンバーの力を最大限に活かせる環境が整っているか、どこに効率化の余地があるのかを見つめ直してみてください。
その視点を一つ持つだけでも、社長の経営判断や資金の使い方は驚くほど的確なものへと変わっていくはずです。
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まとめ
深刻な人手不足が続く現在のビジネス環境において、どうしても「いかにして人を集めるか」という目先の採用活動ばかりに意識が向いてしまいがちです。
しかし、会社を長期的に存続させ、強くしていくために本当に目を向けるべきなのは、
今いる人材が日々の業務の中でどれだけの価値を生み出せているかという、
自社の足元の現状把握です。
いくら表面上の売上規模が右肩上がりに成長していたとしても、
人員や固定費がそれと同じペース、あるいはそれ以上の速さで膨んでいれば、会社が本当に強くなっているとは言えません。
まずは一度、自社の決算書を開いて、売上高や粗利益を従業員数で割った数字を算出してみてください。
1人当たり生産性という客観的な物差しで自社を静かに見つめ直すことで、
これまで見落としていた業務の課題や、次に手を付けるべき経営改善の具体的なアプローチが必ず見えてくるはずです。
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「自社の1人当たり生産性は、同業他社と比較してどの水準にあるのだろうか」
「売上は順調に伸びているはずなのに、なぜか手元にキャッシュが残らない」
「新しい人材を採用すべきなのか、それとも現在の業務体制を効率化すべきか迷っている」
日々の経営の中で、このような疑問や漠然とした違和感を抱くことは少なくありません。
会社の数字は、現状を正しく把握し、次の適切な一手を打つための道標になります。
当事務所では、詳細な決算書分析や資金繰り表の作成を通じて、目に見えにくい会社のお金の流れや経営課題を分かりやすく可視化するお手伝いをしております。
客観的なデータをもとに、社長が納得して次の判断を下せるような、自社に最適な設計図を一緒に作っていきましょう。
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