金利上昇局面の2026年3月期決算で、県内の信金・信組に最終赤字

この記事で分かること

 

  • 新潟県内の信用金庫・信用組合の2026年3月期の純損益
           
  • 3つの信用金庫が最終赤字となった背景
           
  • 預金獲得競争によるコストが、なぜ先行しているのか
           
  • 相続などによる預金流出が地域金融機関に与える影響
           
           

はじめに

 

2026年8月4日付の新潟日報に、新潟県内の信用金庫・信用組合の2026年3月期決算に関する記事が掲載されていました。

 

県内では、上越信用金庫、長岡信用金庫、柏崎信用金庫の3信用金庫が最終赤字となりました。

 

信用組合は8組合すべてが黒字を確保したものの、半数は前期比で減益となっています。

 

県内の信用金庫・信用組合の純損益を整理すると、次のとおりです。

 

 

◆ 新潟県内の信用金庫・信用組合の純損益

2026年3月期

金融機関純損益金融機関純損益金融機関純損益
三条信金2,785
(▲13.6%)
新発田信金87
(▲27.0%)
はばたき信組364
(31.7%)
新潟信金414
(▲33.2%)
村上信金60
(▲14.9%)
糸魚川信組148
上越信金▲607
(赤字転落)
加茂信金64
(13.7%)
巻信組228
(53.0%)
長岡信金▲2,319
(赤字転落)
新潟大栄信組150
(6.1%)
新井信金122
(60.5%)
新潟縣信組294
(▲19.0%)
ゆきぐに信組18
(▲51.4%)
柏崎信金▲1,246
(赤字転落)
協栄信組511
(▲5.4%)
興栄信組8
(▲74.1%)

※単位は百万円。カッコ内は前期比増減率。▲は純損失または前期比減少。

 

 

この表を見ると、

 

赤字に転落した金融機関だけでなく、

黒字を確保しながら純利益が前期を下回った金融機関も多く、

県内の地域金融機関を取り巻く経営環境の厳しさがうかがえます。

 

 

ただし、今回の赤字の直接的な原因と、今後の収益を左右する要因、さらに長期的な経営課題は、分けて考える必要があります。

 

この記事を読み、私は大きく3つの論点があると考えました。

 

 

1.債券売却損は、いわば先に膿を出す処理

 

今回の決算では、保有していた債券の売却損が、最終赤字や減益の要因となりました。

 

 

債券は、一般に市場金利が上昇すると価格が下がります。

 

金利が低かった時期に購入した債券は、

その後に市場金利が上昇すると魅力が低下し、市場価格も下落します。

 

その結果、保有する債券に含み損が生じます。

 

 

今回の債券売却は、金利上昇に対応するため、

低金利時代に取得した債券を売却し、債券ポートフォリオを組み替えたものです。

 

 

含み損を抱えた債券を売却すれば、その時点で損失が確定します。

 

その一方で、売却した資金を、より利回りの高い債券などへ振り替えることができます。

 

今回の処理は、いわば金利上昇局面に備えて、先に膿を出したものです。

 

 

目先の決算では多額の売却損が計上されますが、

低利回りの債券を抱え続けるよりも、今後の運用収益の改善につながる可能性があります。

 

 

したがって、「最終赤字」という数字だけを見て、

預金や融資といった本来業務の収益力まで悪化したと判断するのは早計です。

 

今回の赤字と、本業の収益力は分けて見る必要があります。

 

 

2.預金獲得競争により、コストが先行している

 

今回の決算でもう一つ注目したいのが、預金獲得競争です。

 

各金融機関では、特別金利キャンペーンなどを通じて、預金の獲得競争が強まっています。

 

 

なぜ、通常より高い金利を付けてまで、競って預金を集めているのでしょうか。

 

私は、その背景に、今後も金利が上昇するとの見方があると考えます。

 

金利の先高感があれば、金融機関には、

 

「預金金利がさらに上がる前に、できるだけ早く預金を獲得しておきたい」

というバイアスが働きます。

 

 

預金は、企業への貸出や有価証券運用の原資です。

 

 

今のうちに預金を確保しておけば、

将来、貸出金利や運用利回りが上昇したときに、その資金を使って収益を上げることができます。

 

しかし、特別金利キャンペーンを実施すれば、預金金利の負担はその時点から発生します。

 

 

一方、既存の融資については、預金金利と同じ速さで貸出金利を引き上げられるとは限りません。

 

有価証券についても、保有資産を入れ替え、より高い利回りによる収益が十分に表れるまでには時間がかかります。

 

 

つまり、

預金を集めるためのコストは先に発生する一方、貸出や運用による収益の増加は後から表れる

という時間差があります。

 

  

今回の決算には、

金利の先高感を背景とした預金獲得競争により、調達コストが先行した影響が表れていると考えられます。

 

 

単に「金利が上がったから金融機関はもうかる」というほど、単純ではありません。

 

預金金利の上昇による負担が先に表れ、貸出金利や運用利回りの上昇による収益が、それに追い付くまでには時間がかかるのです。

 

 

3.最も難しいのは、相続などによる預金流出

 

相続などによって県内から預金が流出する問題も顕在化しています。

 

県内の信用金庫・信用組合の預金残高を見ると、前期を下回った金融機関も複数あります。

 

 

◆ 新潟県内の信用金庫・信用組合の預金残高

2026年3月期

金融機関純損益金融機関純損益金融機関純損益
三条信金497,428
(1.9%)
新発田信金87,525
(▲2.1%)
はばたき信組154,365
(▲0.1%)
新潟信金296,645
(▲0.4%)
村上信金87,420
(2.3%)
糸魚川信組69,651
(▲0.0%)
上越信金220,639
(0.5%)
加茂信金84,997
(1.2%)
巻信組65,297
(0.2%)
長岡信金220,574
(0.2%)
新潟大栄信組57,137
(▲0.6%)
新井信金115,594
(▲0.3%)
新潟縣信組431,618
(▲0.7%)
ゆきぐに信組38,643
(0.5%)
柏崎信金102,542
(1.3%)
協栄信組178,097
(1.7%)
興栄信組24,264
(▲2.6%)

※単位は百万円。カッコ内は前期比増減率。▲は前期比減少。

 

 

 

預金残高の減少には、

金利競争による他行への資金移動、企業や個人の資金需要、人口減少など、さまざまな要因があります。

 

そのため、預金残高が減った原因を、すべて相続によるものと見ることはできません。

 

 

ただし、地域金融機関にとって、相続をきっかけに預金が県外へ移る問題は、今後さらに重くなる可能性があります。

 

相続による預金流出は、人口減少、高齢化、若年層の県外流出などを背景とした構造的な問題です。

 

 

例えば、新潟県内に住んでいた親が亡くなり、東京に住む子どもが預金を相続したとします。

 

相続人が日頃利用している金融機関が東京の銀行であれば、相続手続が終わった後、預金をその銀行へ移すことは自然な流れです。

 

 

県内の信用金庫や信用組合が、相続相談、遺言、資産承継などの支援に力を入れても、

相続人が県外で生活し、県外の金融機関をメインバンクとしている状況そのものを変えることは簡単ではありません。

 

 

相続による預金流出については、地域金融機関が十分に有効な手を打ちにくい状況にあります。

 

 

地域金融機関が相続相談や資産承継支援に力を入れる背景には、顧客へのサービス提供だけでなく、

相続をきっかけとした預金流出を防ぎたいという経営上の事情もあります。

 

 

しかし、人口減少や若年層の県外流出が続けば、金融機関だけの取り組みで預金流出を止めることには限界があります。

 

 

預金が減れば、金融機関が融資や有価証券運用に回せる資金も減少します。

 

これは、地域金融機関だけの問題ではありません。

 

地域の中小企業にとっても、将来の資金調達環境に関わる問題です。

 

 

地域金融機関の預金基盤が縮小すれば、

融資先の収益性や将来性、返済能力を、これまで以上に慎重に見るようになる可能性があります。

 

 

中小企業側も、金融機関がいつでも従来どおり融資してくれると考えるのではなく、

自社の決算内容や資金繰りを整理し、継続的に説明できる準備が必要です。

 

 

まとめ

 

今回の決算から見える論点は、大きく3つあります。

 

1つ目は、今回の最終赤字の直接的な原因が、金利上昇に対応した債券ポートフォリオの組み替えによる売却損であることです。

 

これは、いわば将来に向けて先に膿を出した処理です。

 

 

2つ目は、金利の先高感を背景に預金獲得競争が激しくなり、貸出や運用による収益増加よりも、預金金利の負担が先に表れていることです。

 

 

3つ目は、人口減少や相続などによる地域外への預金流出が、地域金融機関の長期的な構造問題になっていることです。

 

 

今回の赤字の直接的な原因は、債券売却損。

 

今後の収益を左右するのは、預金獲得コストと、貸出・運用収益が増える時期とのずれ。

 

そして、最も長期的で難しい課題は、地域に残る預金そのものが減少していくことです。

 

 

同じ「最終赤字」という数字でも、その背景を分けて見なければ、地域金融機関が置かれている状況を正しく理解することはできません。

 

 

地域金融機関は、中小企業にとって重要な資金調達先です。

 

金融機関の決算や経営環境を知ることは、自社の取引金融機関が今後どのような融資姿勢を取るのかを考える材料にもなります。

 

 

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