こんにちは。中小企業の財務コンサルを専門とする行政書士・銀行融資診断士®の本間です。
今回は「税務処理が決算書を歪めてしまうケース」について、棚卸資産評価損を題材に解説します。
会計の原則と棚卸資産評価損
会計の基本は「真実性の原則」にあります。
つまり、決算書は会社の実態をできるだけ正しく表さなければなりません。
棚卸資産は、本来の販売価格からみて著しく回収可能性が低下した場合、適正な評価額まで切り下げ、評価損を計上すべきです。
たとえば、流行遅れの商品や長期滞留している部品などは、帳簿価額のままでは「本当の価値」を示していないことになります。
これを放置すれば、決算書は資産を過大に見せかけることになり、会計の本旨から外れてしまうのです。
税務とのギャップ ― 有税処理の壁
ところが、税務上はこの棚卸資産評価損は「有税処理」とされ、損失を計上しても税務上は否認される(損金算入できない)ケースが多くあります。
つまり、会計では損失を認識すべきなのに、税務では認められない。
このため、社長の中には
「せっかく損失計上しても税金上は意味がない。それなら決算書上も計上せず、見た目を良くした方が銀行には有利では?」
と判断してしまう方が少なくありません。
実際、決算書の利益水準が少しでも高い方が、銀行の与信判断にプラスに働くことは確かです。
しかし、問題はその裏に「過剰在庫」という現実が隠れている点です。
銀行にとって「見えてしまう真実」
銀行は決算書だけを見て判断しているわけではありません。
融資審査では、月次試算表や在庫明細、棚卸リストの提示を求められることも多く、滞留在庫の存在は簡単に見抜かれます。
さらに、過剰在庫は資金繰りにも表れます。売上高に比べて棚卸資産が膨らんでいると、キャッシュが在庫に寝ている状態となり、運転資金に余裕がなくなっていることは一目瞭然です。
そのため、銀行担当者は「決算書上はきれいに見えても、実態は違うな」と感じ、むしろ印象を悪くすることすらあるのです。
粉飾決算との違いと共通点
このケースは、いわゆる「粉飾決算」とまでは言えないかもしれません。
粉飾は意図的に事実を隠ぺいし、銀行をだます行為を指します。
一方で、棚卸資産評価損を計上しないのは「会計上は正しい処理を怠った」状態です。
法的に粉飾と断定されるわけではないとしても、「決算書が本来の実態を表していない」という点では共通しています。
銀行は「事実を率直に開示してくれる社長」を評価します。
逆に、見栄えを優先して実態を隠す姿勢は「都合の悪いことを隠す人」と見なされ、信頼を損ねるリスクがあります。
歪んだ決算書がもたらす長期的リスク
短期的に利益が大きく見えても、在庫が回らなければやがて資金繰りが詰まります。
その時になって銀行に追加融資をお願いしても、「在庫の山を抱えたまま資金がショートした」と見られ、むしろ貸し渋られる可能性が高いのです。
また、決算書の信頼性が揺らぐと、銀行は社長の説明を額面通りに受け取らなくなります。
数字の裏付けや資料提出を細かく求められ、結果として融資交渉のスピードが落ち、資金調達のチャンスを逃すことになりかねません。
どう向き合うべきか
解決策はシンプルです。
会計上は適正に評価損を計上し、決算書に「真実の姿」を反映させる。
そのうえで、税務上の取り扱いについては申告調整を行う。
つまり、会計と税務をきちんと切り分けることです。
そして銀行に対しては、「過剰在庫があり評価損を計上しましたが、在庫処分の計画を立てています」と説明する方が、はるかに信頼を得られます。
実態をオープンにし、そのうえで改善策を提示することが、銀行取引を円滑にする最大のポイントなのです。
まとめ
棚卸資産評価損に限らず、減価償却や引当金など、税務と会計のズレは多くの中小企業で悩ましいテーマです。
しかし「税務上損金にならないから計上しない」という発想は、結果として決算書を歪め、銀行との関係を悪化させるリスクを伴います。
決算書は「税務のため」ではなく「会社の実態を正しく示すため」に作るもの。
その本質を押さえることこそが、資金調達力を高め、企業を長期的に健全にする第一歩だといえます。
※今回は棚卸資産評価損を例にしましたが、他の勘定科目でも同様の歪みは少なくありません。
今度は別な記事で「減価償却と税務のズレ」について解説してみたいと思います。
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