結論:社長が目の前の意思決定をするときは、サンクコスト(過去に使ったお金)は入れずに判断。
ただし、撤退後の振り返りや銀行への説明では、サンクコストを含めて総括することが大切。
こんにちは。中小企業の財務コンサルを専門としております行政書士・1級FP技能士・銀行融資診断士®の本間です。
経営をしていると「ここまでお金をかけてきたのだから、いまさらやめられない」と思う場面がありませんか?
人は「ここまでお金をかけたのだから、やめるのはもったいない」と考えがちです。
これをサンクコスト(埋没費用)の心理と呼びます。
自然な感情ですが、未来の判断を誤らせる要因にもなります。
だからこそ、見込みがないときには損切りが必要です。
株式投資でよく使われる言葉ですが、事業経営でもまったく同じことが言えます。特に中小企業では、この判断が資金繰りに直結します。
サンクコストにとらわれるとどうなる?
例えば、新しい商品開発に500万円投じたとします。
ところが売上がなかなか伸びない。このとき「500万円も使ったんだから、ここでやめたら無駄になる」と考えてしまう。
でも冷静に見れば、その500万円はもう戻らないのです。
大切なのは「これから先にお金が増えるのか減るのか」という視点です。
経営者が迷う理由
それでも、撤退の判断が難しくなるのは、次のような要因が考えられます。
- 「ここまで借金して工場を建てたのに…」という過去投資へのこだわり
- 「撤退すれば従業員の雇用に影響する」という責任感
- 「やめたら失敗を認めることになる」というプライド
- 「あと少し頑張れば成功するかもしれない」という期待
どれも人間らしい自然な感情です。
ですが、それに流されて判断が遅れると、会社の体力が一気に削られてしまいます。
損切りは「負け」ではなく「次への準備」
損切りと聞くと「失敗」と思いがちですが、実際は違います。
続けることでさらに資金が減っていくなら、勇気を持ってやめることは「会社を守る決断」なのです。
むしろ早く損切りできる会社は、浮いた資金や人材を次のチャンスに回せます。
スポーツで言えば「無理なシュートを打たずにパスを回す」イメージです。
見極め方のシンプルな考え方
難しい数式は必要ありません。判断のポイントは次の3つです。
1.これから先に必要なお金と、入ってくるお金を比べる
過去に使った分は忘れて、今後の見込みだけで考えます。
2.「ここまでやったら撤退」と基準を決めておく
売上が一定ラインに届かなければやめる、追加投資はここまで、などルール化しておくと感情に流されません。
3.誰かに相談する
経営者ひとりだと冷静さを欠きがちです。銀行担当者や外部の専門家に意見を聞くことで、客観性が得られます。
利益が出ても続けるべきとは限らない
「利益が少しでも出るなら続けても良いのでは?」と考える方もいます。
しかし実際には、それだけでは不十分です。
例えば、
- 新規ブランドを続ければ年間50万円の利益が見込める。
- しかし同じ人材と資金を本業のOEM(他社ブランドの製品を自社で製造する受託生産)に回せば、200万円の利益が期待できる。
この場合、黒字だから続けるのではなく、会社全体にとってどちらが合理的かで判断すべきです。
つまり大切なのは「利益が出るかどうか」ではなく、
- 資金繰りが安定するか
- 他の選択肢と比べて効果的か
- 将来の成長につながるか
という観点なのです。
プロジェクト全体の評価ではサンクコストも必要
ここで誤解しやすいのが、「サンクコストは常に無視するのか?」という点です。
- 未来の意思決定(続けるか、やめるか)
→ サンクコストは無視。判断基準は「追加で使うお金と、そこから得られる利益」の比較です。
- 過去の振り返り(プロジェクト全体の成否を評価する)
→ サンクコストも含めて「合計いくら投じて、最終的にいくら戻ったか」を計算します。この振り返りをすることで、「最初の見込みが甘かったのか」「撤退が遅れたのか」など、次の戦略に活かせます。
さらに補足すると、撤退によって将来得られる在庫売却益や違約金の支払いなどは、サンクコストとは別物です。
これらは「これから発生するお金の出入り」なので、未来判断の材料に入れるべきもの。
サンクコストと混同しないことが大切です。
事例イメージ
ある町工場が新しい製品を立ち上げ、すでに1,500万円かけました。売上は伸び悩んでいます。
- さらに500万円投資して宣伝すれば、売上が大きく伸びる可能性もある
- でも、やめれば損失は確定するが、在庫売却や違約金精算で多少の資金が戻り、本業に集中できる
判断の場面では「過去の1,500万円は無視」。
「追加の500万円で十分な利益とキャッシュを生み出せるかどうか」を、撤退による将来キャッシュと比較するのが正しい考え方です。
そして最終的に撤退したなら、プロジェクト全体では2,000万円投じて回収1,200万円、差引800万円の損失だったと振り返る。
この両方が必要なのです。
銀行との交渉の仕方(2パターン)
1.継続する場合
- 過去は軽く触れる
「これまで○○万円投じました。今後の採算性はこのように見込んでいます。」
- 数字で根拠を示す
「追加投資500万円に対し、年間売上△△万円、利益率○%を見込み、1年以内に回収可能です。」
- リスク管理を明示
「売上が3期連続で基準に届かなければ撤退します。」
👉 銀行は「無謀に続けるのではない」と理解し、安心感を持ちます。
2.撤退(損切り)する場合
- 潔く総括
「本件は合計2,000万円投じ、最終的に800万円の損失で終了します。」
- 撤退の効果を説明
「撤退により在庫売却等で○○万円を回収し、資金繰りを改善します。」
- 次の戦略を強調
「回収資金と人材を既存のOEM事業に集中させ、△△万円の売上増を見込んでいます。」
👉 銀行は「損切りで資金を守り、次に活かす」という姿勢を評価します。
まとめ
- サンクコストは「すでに戻らないお金」
- 未来の判断では無視し、冷静に追加投資の採算だけを見る
- 過去の振り返りでは含めることで、次の学びにつなげる
- 利益が少しでも出れば良いのではなく、OEMなど本業との比較でどちらが合理的かを考える
- 撤退によるキャッシュはサンクコストと別物として判断材料に加える
- 銀行交渉では「継続なら未来の根拠」「撤退なら資金回収と次の戦略」をシンプルに説明する
経営は挑戦の連続です。続ける勇気も大切ですが、やめる勇気もまた経営の実力です。
そして最終的な判断は、資金繰りの余裕度・本業との兼ね合い・従業員や取引先への影響など、会社ごとの状況により社長自身が下すものです。
本記事の考え方を“判断の物差し”として活用いただければ幸いです。
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