―― 金利上昇局面における銀行ALM・収益構造の視点から
はじめに:預金金利競争は「攻め」なのか「守り」なのか
足もとで、SBI銀行をはじめとするネット銀行が、預金金利の優遇キャンペーンを相次いで打ち出しています。
メディアでは「預金獲得競争の激化」と表現されることが多いですが、これを単なる顧客争奪戦と捉えると、やや本質を見誤る可能性があります。
本記事では、
- 預金=負債という会計的事実
- 金利上昇局面における資金調達構造
- 銀行のALM(資産負債管理)
- 利回り追求とリスクテイクの関係
といった要素を踏まえ、
なぜ今、ネット銀行が「金利を払ってでも預金を集めに行くのか」を整理していきます。
銀行にとって「預金」は単なる負債ではない
銀行にとって、預金は貸借対照表上では負債に計上されます。
しかし銀行経営において重要なのは、負債の金額そのものではなく、その性質です。
預金には、
- 金利が比較的低く抑えられる
- 一部はコア預金として長期に滞留する
- 市場金利の急変にフルには連動しにくい
といった特徴があります。
つまり預金は、
低コストかつ可予測性の高い調達手段
という点で、市場調達や短期借入とは性格が大きく異なります。
金利上昇局面では、この「可予測性」がより重要になります。
金利上昇が銀行経営にもたらす圧力
① 調達コストはまず負債側に影響する
金利が上昇すると、
- コール市場金利
- CDや短期借入
- 債券などの市場調達
といった市場依存度の高い資金調達コストが先に上昇します。
一方、預金金利は、
- 政策的・戦略的に調整できる
- 即時かつ全面的に引き上げなくてもよい
という柔軟性があります。
その結果、
預金が厚い銀行と、市場調達への依存度が高い銀行との差は、金利上昇局面で一気に拡大する
という構図が生まれます。
② 利鞘構造が壊れやすくなる
調達コストが上昇する一方で、
- 優良先への貸出は競争が激しく、金利は上げにくい
- 低リスク貸出ほど利回りは低い
という構造は変わりません。
その結果、
- 調達金利と貸出金利が接近する
- NIM(利ざや)が圧迫される
という状況が生じます。
この局面では、安定的な調達基盤を持たない銀行ほど、PL主導の経営を迫られやすくなります。
「利回り欲しさに危うい案件を拾いやすい」構造の正体
ここでよくある誤解があります。
「資金がギリギリの銀行は、現金が不足しているから無理をする」という見方です。
しかし、実態はそうではありません。
問題は、
低コストで安定した資金調達ができないことにあります。
調達コストが高い銀行のジレンマ
- 調達金利が高い
- 低利回りの優良案件では採算が合わない
- 結果として高利回り案件を選ばざるを得ない
という構造が生じます。
これは、
リスクを取りたいから取るのではなく、PLが成立する金利水準に合わせた結果として、リスクが高まる
という状態です。
これが「利回り欲しさに危うい案件を拾いやすい」と言われる現象の正体です。
預金が厚い銀行は、なぜ無理をしなくて済むのか
一方で、預金が安定的に厚い銀行、特にコア預金比率が高い銀行は、
- 調達コストが低く、見通しを立てやすい
- ALM(資産負債管理)のシナリオを描きやすい
- 利鞘の下限が低い
という特徴を持っています。
そのため、
- 利回りの高さよりも
- 信用リスクや関係性、持続性
といった観点で案件を選別する余地が生まれます。
これは、利回りを無理に取りに行かなくてもPLが成立する状態と言い換えることができます。
ネット銀行にとっての「預金獲得」の意味
ここに、ネット銀行特有の事情が重なります。
① 預金の流動性が高いという宿命
ネット銀行の預金は、
- 非対面取引
- 簡単な操作で資金移動ができる
という特徴があり、平時は効率的ですが、ストレス局面では一気に動きやすい性質を持っています。
そのため、ネット銀行ほど預金の安定性を意識した経営が求められます。
② 金利優遇は「攻め」ではなく「防衛」
この文脈で考えると、
金利優遇キャンペーンは、
「積極的な貸出拡大のため」というよりも、
調達基盤を安定させ、ALM(資産負債管理)の自由度を確保するための防衛策
と位置付ける方が実態に近いでしょう。
結論:金利優遇は先読みした体力づくり
ネット銀行が金利優遇に動く背景には、
- 貸出拡大のための弾薬補充
という単純な理由だけではなく、
- 金利上昇局面を見据えた調達安定性の確保
- 利鞘構造の防衛
- 不要なリスクテイクを避けるための準備
といった、より構造的な事情があります。
言い換えるなら、
「貸したいから預金を集める」のではなく、
「無理に貸さずに済む状態を作るために、預金を集めている」
これが、今回の金利優遇の本質と言えるでしょう。
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