はじめに:融資の「常識」が180度変わる
令和8年(2026年)5月、日本の金融史における大きな転換点となる「事業性融資の推進等に関する法律(事業性融資推進法)」が施行されます。
この法律が創設する「企業価値担保権」は、これまでの
「土地がなければ貸さない」
「社長のハンコ(個人保証)を求められる」
という融資慣行を打破するために生まれました。
最大の革新は、会社の将来性、技術力、顧客ネットワークといった
「目に見えない価値(無形資産)」を含む事業全体をまるごと担保にできる点です。
これにより、有形資産を持たないスタートアップや、次世代へ事業を繋ぎたい後継者が、
自社の「ポテンシャル」を武器に資金を調達できる道が開かれます。
契約手続きと社内決定に関する疑問
Q1:取締役会の決議や、登記の手続きは必須なの?
A:はい、法律上「必須」です。独断での契約はできません。
企業価値担保権は、会社が持つ全財産(在庫、機械、知的財産、将来の収益など)を一体として担保に供する非常に強力な権利です。
そのため、以下の手続きが厳格に定められています。
- 取締役会の決議: 取締役会設置会社であれば取締役会の決議、非設置会社であれば取締役の過半数の同意が必要です。
- 登記: 設定した事実は登記され、第三者(他の債権者など)からも確認できるようになります。
- 信託契約: 法律上、この担保権は必ず銀行等との「信託契約」を通じて設定しなければなりません。
Q2:すでに不動産担保で融資を受けている場合、追加でも受けられるの?
A:可能です。ただし、実務上は「既存融資の借り換え・一本化」が主流になると見られます。
理論上、不動産担保融資と企業価値担保権を併用することは可能です。
しかし、企業価値担保権は「事業全体(総財産)」を担保にする性質上、
他の特定の資産(不動産など)に別の担保権がついていると、万が一の際の法的処理が複雑になります。
そのため、メインバンクが既存の不動産担保融資を「企業価値担保権付き融資」へ切り替え、一本化することで、
担保枠を拡大(追加融資)する形が多くなると予想されます。
信用保証協会や他行との関係に関する疑問
Q3:信用保証協会との関係はどうなるの?
A:基本的には「保証協会を介さないプロパー融資」がメインになると予想されます。
企業価値担保権は、銀行が自ら事業を評価し、リスクを取って貸し出すための制度です。
そのため、従来の「保証協会付き融資」に頼るのではなく、銀行独自の判断によるプロパー融資での活用が期待されています。
「不動産も事業評価も難しい場合は保証協会付き」「事業の将来性が高い場合は企業価値担保権(プロパー)」といった住み分けが進むでしょう。
Q4:複数の銀行から借りる「協調融資」でも使えるの?
A:はい。むしろ「担保の共有」が非常にスムーズになります。
これまでの協調融資では、不動産の抵当権に「第1順位」「第2順位」をつけるなど、銀行間での調整が複雑でした。
企業価値担保権では「信託」の仕組みを使うため、受託者(メインバンク等)が事業全体を一括管理し、
参加する他の銀行と担保価値を平等に共有しやすくなります。
事務負担が減り、シンジケートローンなどの組成も円滑になるメリットがあります。
経営者保証と評価の「物差し」に関する疑問
Q5:経営者保証(個人保証)は本当になくなるの?
A:原則として「外す方向」ですが、経営の透明性が条件となります。
本制度は、個人保証に依存した融資慣行を是正することを基本理念としています。
銀行は「事業全体」を担保として押さえるため、社長個人の資産を人質に取る必要性が大幅に低下します。
ただし、「公私混同がないこと」や「適時適切な財務報告」ができていることが前提です。
Q6:路線価のような指標がない以上、銀行の「言い値」で決まるのでは?
A:短期的には操作されるリスクがあります。だからこそ「比較」が必要です。
銀行は「将来の現金」を今の価値に直す際、事業のリスクを「割引率(DCF法)」として差し引きます。
この数値に客観的指標がないため、銀行が都合で数値をいじろうとする懸念は拭えません。
これに対抗する手段は、複数の銀行に事業計画をぶつけて「相見積もり」を取ることです。
法的責任と「不当な対応」への対処法
Q7:嘘の計画を出したら? また銀行が勝手な真似をしたらどうなる?
A:双方に厳格なルールがあります。特に銀行には「事業を守る義務」が課されます。
借り手が意図的な嘘を報告して融資を受けた場合、詐欺罪に問われる可能性があるほか、制度の利用資格を失います。
一方、銀行側(受託者)には非常に重い「善管注意義務(善良な管理者の注意義務)」が課されます。
もし銀行が「担保を取っているから」と企業の利益を無視し、
まだ再生の可能性があるのに強引に事業をバラバラにして売却するような行為をすれば、
銀行が損害賠償を請求される対象になります。
Q8:銀行が話し合いに応じない場合、金融庁に通報できる?
A:はい、可能です。専用の相談・情報受付窓口が設置されます。
銀行が不当な扱いをした場合、金融庁の相談窓口へ連絡することが可能です。
国はこの新制度の健全な普及を重視しているため、金融庁は銀行側の不適切な運用に対して厳しい監督の目を光らせています。
まとめ:未来を拓く「資金繰り予定表」の力
2026年5月から始まる「企業価値担保権」の本質は、以下の3つの転換に集約できます。
- 担保の対象: 「過去の資産(不動産)」から、「未来の可能性(事業全体)」へ。
- 評価の軸: 「過去の実績」から、「資金繰り予定表の確からしさ(蓋然性)」へ。
- 関係性: 「貸し手・借り手」から、共に事業価値を高める「パートナー」へ。
社長がやるべきことは、土地を探すことでも、無理な保証を飲むことでもありません。
「自社の事業がいかに現金を産むか」を、第三者が納得する数字で証明することです。
精緻な資金繰り管理を習慣化し、自社の「稼ぐ力」を可視化すること。
それが、個人保証から解放され、会社を飛躍させるための唯一の道となります。
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