はじめに
2026年1月1日より、これまでの中小企業取引のあり方を根本から変える
「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(中小受託取引適正化法)」
が施行されました。
これは、長年運用されてきた「下請代金支払遅延等防止法(下請法)」を大幅にアップデートしたものです。
今回の改正における最大のトピックは、紙の約束手形による支払いが事実上の禁止となり、現金による支払いが強く義務付けられたことです。
一見すると、支払う側にとっては負担が増えるようにも感じられますが、実は日本の中小企業経営全体を底上げする大きなチャンスでもあります。
本記事では、この新しい法律が経営にもたらす3つのメリットを中心に、これからの取引ルールの新常識を整理します。
この記事でわかること
- 2026年1月から施行された「中小受託取引適正化法」による支払いルールの変更点
- 紙の約束手形が廃止され、現金払いが義務化された背景とその影響
- 決済の電子化や適切な価格転嫁が中小企業の経営にもたらす具体的なメリット
支払期日の厳格化と紙の約束手形の終焉
「中小受託取引適正化法」の施行に伴い、代金の支払いルールがこれまで以上に厳格化されました。
物品等を受領してから60日以内に支払うという基本ルールは、従来の「下請代金支払遅延等防止法(下請法)」から引き継がれています。
しかし、今回の大きな変更点は、その期間内であっても「できる限り短い期間内に現金(銀行振込等)で支払うこと」が義務化された点です。
特に注目すべきは、買掛金の支払期日に手形を振り出して支払いを先延ばしにする慣習への制限です。
これまでは期日に手形を出せば、そこからさらに数ヶ月先の満期日まで現金化を待たせることが可能でした。
しかし現在は、支払いサイト(振出から満期までの期間)が60日を超える手形は行政指導の対象となります。
◆ 紙の手形廃止と今後の展望
現時点で紙の約束手形そのものが法律で即座に禁止されたわけではありません。
しかし、2026年度末には銀行での交換業務自体が終了する予定となっており、物理的にも手形を切るという行為自体ができなくなる仕組みへと移行しています。
行政指導による期間の短縮と、銀行インフラによる物理的な廃止。
この二段構えによって、受託側がいつまでも現金化を待たされるという古い商慣習は、事実上の終焉を迎えています。
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メリット1:キャッシュフローの劇的な改善
新法への移行がもたらす最大のメリットは、受託事業者のキャッシュフローが大幅に改善されることです。
これまでは、買掛金の期日が来たとしても、渡されたのが120日先まで現金化できない手形であれば、実質的な入金まで半年近く待つことも珍しくありませんでした。
紙の手形による支払いが現金(振込)や短いサイトの電子記録債権に置き換わることで、売掛金の回収スピードが格段に上がります。
手元の現預金が早く確定することで、新たな設備投資や材料の仕入れ、従業員への賞与といった前向きな支出に充てられるようになります。
借入金に頼る必要性が減れば、支払利息の削減にもつながり、経営の健全性が高まります。
「売上はあるのに手元に現金がない」という黒字倒産のリスクを回避できることは、中小企業にとって何よりの安心材料です。
メリット2:コスト削減と事務作業の効率化
2つ目のメリットは、決済の電子化によるコストの削減と生産性の向上です。
紙の約束手形を廃止し、銀行振込や電子記録債権(でんさい等)へ移行することで、これまで当たり前のように支払っていた印紙税が不要になります。
また、手形を郵送するための書留代や、それを厳重に保管するための設備、銀行へ出向く手間といった、目に見えにくいコストや人件費も削減できます。
紛失や盗難のリスク、あるいは再発行に伴う極めて煩雑な手続きといった経営上の不安要素が取り除かれることは、少人数で経営を行う中小企業にとって非常に大きな恩恵となります。
事務作業が簡素化されることで、本来注力すべき本業の営業活動や技術向上にリソースを割くことが可能になります。
メリット3:適正な価格転嫁とパートナーシップの強化
3つ目のメリットは、原材料費や人件費の高騰分を適切に価格へ反映しやすくなる点です。
「中小受託取引適正化法」では、委託事業者が受託事業者からの価格改定の申し出に対し、誠実に応じる協議義務が明文化されました。
一方的に価格を据え置くことは法違反のリスクを伴うため、対等な立場での価格交渉がしやすくなります。
これにより、コスト上昇分を自社だけで飲み込む必要がなくなり、適正な利益を確保できるようになります。
また、発注側と受注側が透明性の高い協議を行うことで、
単なる下請けではなく、共に価値を創造するパートナーとしての信頼関係が再構築されるきっかけとなります。
まとめ
「下請代金支払遅延等防止法(下請法)」から「中小受託取引適正化法」への転換は、日本の中小企業がデジタル化と健全なキャッシュフローを手に入れるための大きな一歩です。
現金化のスピードアップ、事務コストの削減、そして適切な価格交渉。
これら3つのメリットを最大限に活用することで、外部環境の変化に強いしなやかな経営基盤を築くことができます。
これまでの古い商慣習から脱却し、新しい法律が求める誠実で効率的な取引をいち早く取り入れることが、次世代の経営において不可欠な戦略となるでしょう。
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