~ 2,000億円の赤字は失敗じゃない ~
2,008億円の赤字。しかし、それは失敗を意味しない
金融機関の決算が「赤字」と聞くと、多くの人は経営不振や将来への不安といったネガティブなイメージを抱くでしょう。
しかし、もしその赤字が、利益追求ではなく「社会的な使命」を果たした結果だとしたら、その意味合いは大きく変わります。
日本政策金融公庫(JFC)が公表した令和6年度決算。
そこに記されていた当期純損失は 2,008億円。
数字だけを見れば衝撃的ですが、決算書と事業報告書を丁寧に読み解くと、
この赤字が「失敗」ではなく、政策金融機関としての役割を全うした証であることが
浮かび上がってきます。
最大の赤字部門は、日本経済の「セーフティネット」だった
赤字の中心となったのは、国民一般向け業務勘定です。
この部門だけで 1,601億円の当期純損失を計上しています。
この勘定が担うのは、小規模事業者や個人、教育資金など、国民生活に最も近い金融支援です。
なぜこれほどの赤字になったのか。その理由は明確です。
- 令和6年能登半島地震への災害対応
- 物価高、人手不足に苦しむ事業者への低利融資
- 返済猶予や信用リスクの高い先への資金供給
民間金融機関であれば引き受けきれないリスクを、国の政策として引き受けた結果が、この赤字でした。
さらに、信用保険等業務勘定でも 492億円の赤字を計上しています。
これも災害関係保証など、セーフティネット機能を優先した結果です。
日本政策金融公庫は、その使命を次のように掲げています。
政策金融の担い手として、安心と挑戦を支え、共に未来を創る。
この赤字は、まさにこの使命を遂行した「証拠」と言えるでしょう。
【参考】当期純損失(赤字)部門の合計
| 勘定(部門) | 当期純損失額(百万円) |
|---|---|
| 国民一般向け業務勘定 | 160,128 |
| 信用保険等業務勘定 | 49,265 |
| 危機対応円滑化業務勘定 | 23,728 |
| 特定事業等促進円滑化業務勘定 | 37 |
| 損失合計 | 233,158 |
すべてが赤字ではない。危機対応をしながら黒字を生む部門もある
一方で、全ての部門が赤字というわけではありません。
- 農林水産業者向け業務勘定:当期純利益 31億円
- 中小企業者向け融資・証券化支援保証業務勘定:当期純利益 290億円
【参考】当期純利益(黒字)部門の合計
| 勘定(部門) | 当期純利益額(百万円) |
|---|---|
| 農林水産業者向け業務勘定 | 3,143 |
| 中小企業者向け融資・証券化支援保証業務勘定 | 29,064 |
| 中小企業者向け証券化支援買取業務勘定 | 93 |
| 利益合計 | 32,300 |
注目すべきは、
これらの黒字部門もまた、災害や物価高の影響を受けた事業者への支援を行い、
「セーフティネット機能を発揮した」
と明記されている点です。
つまり、
- 危機時には、すべての部門がセーフティネットとして機能する
- その上で、成長支援・事業承継・農林水産業の持続可能性を担う分野が黒字を生み、組織全体を支える
赤字部門と黒字部門を単純に分けるのではなく、
危機対応と未来への投資を両立させるポートフォリオ構造が、
意図的に設計されていることが読み取れます。
融資だけではない。「つなぐ」ことで経済を動かす役割
日本政策金融公庫の活動は、資金を貸すことに留まりません。
事業報告書からは、金融を超えた多様な支援が見えてきます。
- 販路拡大支援
能登半島地震の被災事業者を支援する「石川県応援カタログ」を複数回発行。
- マッチング・事業承継支援
全国152支店のネットワークを活かし、後継者不足に対応するマッチングイベントを開催。
- 輸出支援・挑戦の場づくり
国産農林水産物の海外展開に向け、復興支援コーナーやトライアル輸出を実施。
- 次世代育成
「高校生ビジネスプラン・グランプリ」を通じ、創業マインドを育成。
ここから見えてくるのは、日本政策金融公庫を「資金の貸し手」ではなく、
人と人、企業と市場、地域と未来をつなぐ存在として位置づけている姿です。
政府系=保守的、ではなかった。意外なほどモダンな組織像
事業報告書では、人的資本への投資姿勢も印象的です。
- 男性職員の育児休業(1か月以上)取得率:90%目標
- 管理職に占める女性比率:12%以上(2028年)
政府系金融機関としては極めて先進的な目標設定であり、
内部改革にとどまらず、社会全体へのメッセージ性を持つ取り組みと言えるでしょう。
民間金融のライバルではなく、「補完し、つなぐ」パートナー
日本政策金融公庫法第1条には、その基本姿勢が明記されています。
- 民間金融機関の補完
- 関係機関をつなぐ役割
日本政策金融公庫は、民間銀行と競争するプレーヤーではありません。
むしろ、民間金融が最大限に機能するための「土台」を整える存在です。
高齢化や後継者不足、災害リスクを抱える地域経済において、
この補完関係は欠かせない社会インフラとなっています。
結論:2,008億円の赤字は「社会への投資」だった
日本政策金融公庫の2,008億円の赤字は、経営の失敗ではありません。
それは、災害や経済危機から社会を守るために支払われたコストであり、
事業継続や雇用維持という形でリターンを生む 戦略的な社会投資です。
決算書の数字の裏側には、
- 危機時に全力で支える覚悟
- 成長分野への継続的な投資
- 金融を超えて「つなぐ」役割
そんな確固たる使命を感じました。
私たちが目にする「赤字」や「利益」という数字。
その裏にある目的や役割まで読み解いてこそ、決算書は本当の意味を語り始めるのかもしれません。
【参照ページ】業務と財務の状況|日本政策金融公庫
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