はじめに
先日、飲食店を10店舗展開されている経営者とお話しする機会がありました。
コロナ禍という厳しい局面をどう乗り越えたのかという話題の中で、彼が活用していた「資本性劣後ローン」の話が非常に印象的でした。
「公庫から劣後ローンを引いてね。20年の一括償還だし、何より劣後なのに利息が驚くほど低いんだよ」
一般的に劣後ローンといえば、貸し手側のリスクが高いため、高金利に設定されるのが金融の常識です。
しかし、そこには国の政策による知られざる逆転の仕組みがありました。
今回は、プロの経営者がなぜこの融資を低いと評価し、戦略的に活用しているのかを専門家の視点で読み解きます。
劣後ローンの常識と特例のギャップ
金融の教科書を開けば、劣後ローン(劣後特約付借入金)は、万が一の際の返済順位が後回しになるため、
貸し手の金利は高めに設定されるのが鉄則です。
実際に公庫の利率一覧を比較してみても、通常の貸付(基準利率)が2%台であるのに対して、
資本性劣後ローンの黒字時の利率は3.25%から3.95%と、かなり高めの設定になっています。
私が「高いのでは?」と感じるのも、金融の原則に照らせば正しい感覚なのです。
しかし、日本政策金融公庫が提供する「新型コロナ対策資本性劣後ローン」には、この常識を鮮やかに覆す設定が隠されていました。
赤字なら0.50%という衝撃の金利設定
この制度の最大の特徴は、業績連動型の金利体系にあります。
なかでも特筆すべきは、赤字(税引後当期純利益が0円未満)の場合の利率です。
[参考:日本政策金融公庫 資本性ローン制度解説ページ]
👉 https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/57.html
通常、業績が苦しい企業への融資ほどリスクが増すため、金利はさらに引き上げられるのが一般的です。
しかしこの特例では、赤字であれば利率はわずか0.50%に設定されています。
本来は高コストなはずの劣後ローンが、経営が苦しい時には0.50%という超低コスト資金へと姿を変える。
この逆転現象こそが、多くの経営者を支えるセーフティネットとなったのです。
黒字化で金利が跳ね上がる諸刃の剣
ただし、この制度を語る上で見落としてならないのが、業績連動による金利上昇のリスクです。
この制度では、ご融資後1年ごとに直近の決算業績に応じて利率が見直されます。
つまり、経営が回復して黒字化が確認されると、その後の利率は一気に3パーセントから4パーセント近くまで跳ね上がります。
順調に利益が出始めると、周辺で最も高コストな借入へと変貌する可能性があるのです。
それにもかかわらず、なぜ10店舗を率いるプロ経営者は「利息は低い」と言い切り、この資金を持ち続けるのでしょうか。
そこには金利コストを支払ってでも守るべき、戦略的価値があります。
第一に、金利が上がっても「元本の返済が不要」という事実は変わりません。
キャッシュフローを最優先する飲食店経営において、利益が出ている時こそ手元の現金を減らさず、次の出店や設備投資に回せるメリットは金利負担を上回ります。
第二に、この資金が自己資本として評価され続ける点です。
たとえ4パーセント近い金利を支払ってでも、財務諸表上の自己資本比率を高く保つことで、メインバンクなどの民間金融機関からより好条件で融資を引き出すレバレッジとして機能させているのです。
経営者がこの制度を最強の武器とする理由
10店舗を率いる経営者が、単に金利が低いという理由だけでこの制度を選んだわけではありません。
この融資には、経営の安定化に直結する強力な特性があります。
20年間、元本返済不要という武器
この制度は「期限一括償還」という方式をとっています。
5年1ヵ月、10年、あるいは20年といった期間中、元本の返済は一切必要ありません。
毎月の支払いは利息のみ。手元のキャッシュを減らさずに、攻めの投資や運転資金に回せるメリットは計り知れません。
20年間、返さなくていい自己資金がドカンと増えたのと同じ意味を持ちます。
借金なのに自己資本という評価
最大の肝は、この融資が銀行の資産査定上、自己資本とみなされる点です。
帳簿上は負債であっても、実質的には資本金のような扱いを受けるため、会社の財務健全性が高く評価されます。
その結果、民間金融機関からの追加融資が受けやすくなるという呼び水の効果があるのです。
彼はこの0.5%水準の資本をテコにして、10店舗の城を守り、さらに攻める体制を整えていたわけです。
まとめ
「劣後ローンは高い」という一般論は正しいですが、
有事における公的融資制度には、その常識を覆すほどの戦略的価値が隠されていることがあります。
今回お会いした経営者は、この低利の資本性資金を20年という長期で確保することで、
財務体質を強化し、次なる展開への足掛かりにしていました。
劣後ローンは高いという一般論は正しい。
しかし、有事における政策の歪みを見逃さず、自社の血肉に変えるのが本物の経営者です。
制度の表面的な名称だけでなく、その裏側にある真の条件を読み解く力が、
企業の存続を左右すると改めて感じさせられます。
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