はじめに
将来の売上なんて、予測できるはずがない。
赤字決算を経験し、銀行から事業計画書の提出を求められた経営者の多くが、このように頭を抱えます。
先行きが見えない中で無理やり数字をひねり出そうとすることは、
まるでライトをつけずに夜道を運転するような、言いようのない恐怖と不安を伴うものです。
しかし、多くの方が陥る罠は「売上の予測」から計画を立てようとすることにあります。
倒産を回避し、着実に黒字化へ導くための事業計画書は、
売上からではなく、もっとも確実な数字である「支出」から積み上げるべきなのです。
今回は、暗闇を照らす「逆算」の思考法をお伝えします。
この記事で分かること
- 将来の売上予測よりも「固定費」の把握が優先される理由
- 経営改善に不可欠な「固定費」の正しい算出方法
- 目標利益から必要売上を導き出す「逆算の算式」
- 資金繰りが厳しい局面での銀行返済との向き合い方
- 数字が突きつける現実と、経営者が下すべき決断
将来の支出は100%予測できる
先のことが分からないから数字に落とし込めないという悩みは、経営者として極めて誠実な反応です。
しかし、それは一部は正しく、一部は間違っていると言わざるを得ません。
確かに、市場動向に左右される売上や、それに連動する仕入れ・外注費(変動費)を正確に予測するのは不可能です。
しかし、それ以外の経費、いわゆる固定費は、驚くほど正確に予測できます。
なぜなら、固定費の多くは契約に基づいているからです。
- 人件費:
雇用契約に基づき、来月も再来月も支払額が決まっています。
- 家賃:
賃貸借契約に基づき、退去しない限り金額は動きません。
- リース料:
リース契約に基づき、毎月の支払額は一定です。
売上が1であっても100であっても、出ていく金額は変わりません。
つまり、出ていくお金については、今日この時点で1年先まで100%に近い精度で見通すことができるのです。
予測不可能な「売上」に一喜一憂する前に、
まずはこの「確定した未来」である支出を直視することから、再建は始まります。
固定費の正体を見極める算出のコツ
事業計画を作る際、細かな経費項目をすべて精査して疲弊する必要はありません。
中小企業の固定費の大部分は、実は数項目に集約されます。
まず見るべきは、固定費の7〜8割を占める「人件費(役員報酬、給与、賞与、社保、福利厚生)」と「家賃」です。
ここを抑えるだけで、固定費の輪郭はほぼ確定します。ここで、実務上の重要なポイントを2点補足します。
◆ 製造業の労務費は固定費と心得る
決算書上、現場の給与が売上原価に含まれていても、実態は固定費です。
仕事がなくても給与を払う必要がある以上、これを除いて計画を立てることはできません。
ここを見誤ると、算出した必要売上高に大きな狂いが生じます。
◆ 助成金などは差し引いて考える
雇用調整助成金などがある場合、人件費からこれらを差し引いた「実質的な負担額」を固定費として算出します。
これが真に稼がなければならない額を見極めるポイントです。
一時的な支援金に頼らず、
自力で賄わなければならない「素のコスト」を把握することが、腹落ちする計画づくりの第一歩です。
経営は逆算である。目標利益から導き出す算式
損益計算書を上(売上)から見るのはやめましょう。
赤字を脱却するためには、一番下(利益)から積み上げる逆算のステップが不可欠です。
以下の例で、具体的な算式を見ていきましょう。
- 目標とする経常利益を決める
まずはゼロ=赤字脱却からで構いません
- 支払利息を足して目標営業利益を出す
例:利息が200万円なら、目標営業利益は200万円
- 固定費を足して目標粗利益を出す
例:固定費が5,000万円なら、5,000万 + 200万 = 5,200万円
- 粗利益を粗利益率で割り、目標売上高を算出する
例:粗利益率が50%の場合
目標売上高は、割り算(5,200万 ÷ 0.5)で、1億400万円と導き出されます。
出ていくもの(固定費)を稼がない限りは赤字になります。
出ていくお金を知ることで、自分の会社がいくら稼がなきゃいけないかが見えてくるのです。
この算式で出た数字こそが、会社が生き残るために死守すべき最低限のラインとなります。
この数字を「設計」することこそが、経営者の本来の仕事です。
非常時の借入金返済との向き合い方
黒字経営の時は、銀行が折り返し融資に応じてくれるため、返済をそれほど意識せずに済みました。
しかし、赤字に転落すると銀行の態度は変わります。
もし手元資金に余裕があるなら、無理に返済原資(元金)まで粗利で稼ごうと焦る必要はありません。
今はまず固定費を1円残らず回収し、赤字を止めることを最優先の戦略に据えましょう。
返済のために無理な営業をかけ、さらに赤字を掘るような本末転倒な事態は避けなければなりません。
もし、返済を続けることで資金繰りが破綻しそうなら、
無理に稼ぐ努力をする前に、まずは銀行に相談して返済を止める(リスケジュール)という選択肢を真剣に検討しましょう。
会社を守るための止める勇気も、経営者の重要な資質です。
それは逃げではなく、再生のための時間を稼ぐという戦略的な判断です。
算出された目標売上が現実離れしていたら
逆算で導き出した目標売上という数字。
これが市場の需要予測と照らして、どう足掻いても届かない数字だったとしたら。
それは、今の構造のままではどれだけ頑張っても生き残れないという、数字が突きつける残酷なシグナルです。
数字は嘘をつきません。だからこそ、この現実を直視しなければならないのです。
2期連続の赤字は、銀行からの信頼を失うデッドラインです。
なんとしても1期で食い止めるためには、これまでの延長線上ではない、構造的な改革を断行しなければなりません。
- 赤字から抜け出せない部門からの撤退
- コストが見合わない顧客との取引終了
- 断腸の思いでの人員整理
これらは苦渋の決断ですが、会社そのものを消滅させないための、経営者にしかできない最後の聖域なのです。
この「設計図」を書き換える決断ができるかどうかが、会社の運命を左右します。
まとめ
事業計画書を作ることは、単なる書類作成ではありません。
それは暗闇の中での運転から、目的地と足元を照らすヘッドライトを持つ状態への劇的な変化です。
まずは今夜、通帳と決算書を開き、毎月の固定費を書き出すことから始めてみませんか。
いくら稼がなければならないかが明確になれば、迷いは消え、次に打つべき手が見えてくるはずです。
会社を守るために変えられない数字を直視する勇気が、再生への第一歩となります。共に、一筋の光を見つけ出しましょう。
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