はじめに:なぜ「新しい担保」が必要になったの?
「素晴らしいアイデアや技術があるのに、担保に入れる土地がないから借入ができない……」
「新事業に挑戦したいが、社長個人のハンコ(経営者保証)を求められるのが重荷だ」
そんな悩みを抱える経営者に朗報です。
2026年(令和8年)5月25日から、「企業価値担保権」という画期的な制度がスタートします。
(令和六年法律第五十二号 事業性融資の推進等に関する法律)
これまでの融資は、どうしても土地や建物といった「目に見える資産」を重視してきました。
しかし、今の時代の価値は、むしろ
「目に見えないもの」――ノウハウ、顧客基盤、ブランド、そして何より「将来の稼ぐ力」――
にあります。
この制度は、「会社そのものの価値」をまるごと担保にして、資金調達をスムーズにする仕組みです。
これにより、有形資産が少ない企業でも、事業のポテンシャルを正当に評価してもらえるようになります。
徹底比較!3つの融資方法の違い
まずは、今までの融資と何が違うのか、一覧表で全体像を掴んでみましょう。
◆ 全体像を掴む比較表
| 比較ポイント | ① 不動産担保融資 | ② 無担保融資 | ③ 企業価値担保権付き融資 |
| 担保の対象 | 土地や建物などの「不動産」 | 特定の担保なし | 技術、ブランド、顧客、事業全体 |
| 評価の基準 | 客観的な「今の時価」 | 過去の決算書(信用力) | 「未来の稼ぐ力」 |
| 銀行との関係 | 担保の番人(限定的) | 一般的な債権者 | 伴走する「パートナー」 |
| 最大の焦点 | 資産価値 | 過去の実績 | 資金繰り予定表の確からしさ |
◆ 深掘り:価値の「はかり方」が180度変わる
最大の違いは、銀行がどこを見て「いくら貸すか」を決めるかという時間軸です。
- 不動産担保: 「過去から積み上げた資産」を評価。
- 企業価値担保権: 「今から生み出す未来の現金」を評価。
つまり、「あなたの会社が将来、いくら現金を残せるか」が融資額を決める物差しになります。
社長が気になる「じゃあ、いくら借りられるの?」の目安
不動産なら「坪単価×面積」ですが、
企業価値担保権では「DCF法(ディスカウント・キャッシュ・フロー法)」という計算がベースになります。
これは、「将来手に入るお金を、今の価値に直したらいくらになるか?」を計算する方法です。
◆ なぜ「割り引く」必要があるのか?
例えば、「今すぐもらえる1,000万円」と「5年後にもらえる1,000万円」では、今すぐもらえる方が価値は高くなります。
5年後には倒産しているかもしれないし、物価が変わっているかもしれないからです。
この「将来の不確実性(リスク)」を数字にしたものが「割引率」です。
【計算の具体例:割引率5%の場合】
毎年1,000万円のキャッシュ(純現金)を生む事業の「今の価値」は、以下のように目減りして評価されます。
- 1年後の1,000万円 ≒ 952万円 (1,000 ÷ 1.05)
- 2年後の1,000万円 ≒ 907万円 (1,000 ÷ 1.052)
- 3年後の1,000万円 ≒ 864万円 (1,000 ÷ 1.053)
- 4年後の1,000万円 ≒ 823万円 (1,000 ÷ 1.054)
- 5年後の1,000万円 ≒ 784万円 (1,000 ÷ 1.055)
【注】割引率は、物価変動(CPI)ではなく、主に「事業計画の不確実性」で決まります。 銀行が「この計画はズレるリスクが高い」と判断すれば割引率は大きくなり、借りられる額は減ります。逆に「この計画なら確実だ」と信頼されれば割引率は小さくなり、より高額な融資が受けられるようになります。
∴ 5年間の合計:約4,330万円
※ここに銀行独自の「掛け目」を考慮した金額が、融資額の目安となります。
◆ 経営者にとっての「勝負どころ」
この計算式において、社長がコントロールできる変数は2つあります。
- 「稼ぐ力」を大きく見せる: 「来年はもっと利益が出る」という計画を立てること。
- 「リスク(割引率)」を小さく見せる: 銀行が「この計画はズレが少なそうだ」と判断すれば、割引率が下がり、計算上の担保価値(融資額)が大きく跳ね上がります。
逆に、資金繰り予定表が「根拠のない右肩上がり」だと、
銀行は「不確実性が高い」と判断して割引率を10%、20%と高く設定します。
すると、利益計画が同じでも、融資額は半分以下になってしまうのです。
つまり、不動産がなくても、「5年間で5,000万円稼げる根拠」を論理的に示せれば、
それがそのまま数千万単位の融資枠に直結するのです。
勝負を分けるのは「資金繰り予定表の蓋然性」
ここで、経営者の皆様に最もお伝えしたいことがあります。
企業価値担保権において、銀行が最も厳しくチェックするのは、決算書以上に「資金繰り予定表の蓋然性(確からしさ)」です。
◆ なぜ「資金繰り予定表」なのか?
土地という「逃げ道」がない融資において、銀行にとっての唯一の回収原資は、会社が生み出す「現金」そのものです。
- その売上予測に根拠はあるか?
- コストの変動をどこまで織り込んでいるか?
- 万が一の際、どの支出を削って返済に回すのか?
これらの問いに対して、論理的で精度の高い「資金繰り予定表」を提示できるかどうかが、融資の可否と金額を決定づけます。
「だいたいこれくらい売れるだろう」というどんぶり勘定では、もはや担保として機能しません。
この仕組みは、誰にとって嬉しいのか
◆ スタートアップや、攻めの投資をしたい企業
土地や工場を持たないIT企業やサービス業でも、優れたビジネスモデルがあれば、巨額の成長資金を「事業そのもの」を担保に調達できます。
◆ 事業承継を控えた経営者
「親の借金を継ぐのはいいが、自分の個人資産まで差し出すのは嫌だ」という後継者は多いものです。
企業価値担保権に切り替えることで、経営者保証(個人保証)を外した形でのスムーズなバトンタッチが可能になります。
◆ 地域を支える中堅・中小企業
銀行が「パートナー」として深く入り込むため、一時的な赤字でも、事業の将来性さえ見失わなければ、継続的な支援を受けやすくなります。
ちょっと気になるQ&A
Q1:結局、銀行に経営をガチガチに管理されるのでは?
A1: 確かに、月次の試算表や資金繰りの報告はこれまで以上に求められるでしょう。
しかし、それは「透明性の高い経営」への進化でもあります。
銀行を「監視役」ではなく「財務部長」として使い倒すくらいの姿勢が求められます。
Q2:銀行にとって、無担保融資と変わらないのでは?
A2: 違います。企業価値担保権は法律で守られた強力な権利です。
万が一の際、銀行は「事業をバラバラに売却させない」という強い権限を持ちます。
事業全体を守りながら再建・譲渡をリードできるため、銀行にとっても無担保よりリスクが低いのです。
Q3: 法律(事業性融資推進法第8条・第9条)では、企業価値担保権を設定する際、企業と銀行の間に「信託契約」を結ぶことが義務付けられています。
融資を受ける際、別に「信託会社」を探して契約する必要があるの?
A3: いいえ、基本的には融資を受ける銀行とのやり取りだけで完結します。
法律上、この制度には「信託契約」が必要ですが、多くの銀行は「信託業務」も兼営しています。
そのため、融資をする銀行がそのまま「信託の受け皿」の役割も兼ねるのが一般的です。
わざわざ外部の信託会社を探す手間はなく、一つの窓口で手続きが進みます。
むしろ、信託という形をとることで、複数の銀行からまとめて融資を受ける(シンジケートローン)際にも、一つの担保枠をスムーズに共有できるというメリットがあります。
まとめ:未来の可能性に投資する新しいカタチ
企業価値担保権の施行は、融資の常識を根底から覆します。
- 担保の対象を、過去の資産(不動産)から未来の事業全体へ。
- 評価の軸を、過去の実績から「資金繰り予定表の蓋然性」へ。
- 金融機関との関係を、貸し手・借り手から「成長パートナー」へ。
これからの経営者に求められるのは、土地を探すことではありません。
「自社の事業が、いつ、どこで、どれだけの現金を産むのか」を数字で証明する力です。
2026年の施行に向けて、今から精緻な資金繰り管理を習慣化しておくこと。
それが、将来の大きな資金調達を実現する唯一の道となります。
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