はじめに
日本銀行が「金利のある世界」へと舵を切って以降、銀行の決算書には、これまで見られなかった変化が表れています。
直近の地方銀行決算を確認すると、
経常収益は増えている一方で、経常費用も同じ規模で増えているケースが目立ちます。
その結果、「増収ではあるが、利益の伸びは限定的」という決算が少なくありません。
この背景にあるのが、
行にとっての「仕入れ値」にあたる 資金調達費用 の急上昇です。
なかでも 預金利息 の増加は、これまでの低金利環境では考えにくい水準に達しています。
一見すると、
「金利が上がったのだから、銀行は儲かっているのではないか」
と思われがちですが、決算を丁寧に見ていくと、そう単純ではない構造が浮かび上がります。
金利上昇で、銀行の何が一番変わったのか
銀行の損益構造で、最も分かりやすく変化しているのが「利息」です。
新潟県の第2地方銀行である大光銀行の
「経常費用は、資金調達費用が増加した」とあり、
損益計算書を紐解くと、次のような動きが確認できます。
◆ 貸出金利息の推移
- 前年同期:9,197百万円
- 当期:11,325百万円
- 増加額:+2,128百万円
- 増加率:+23.1%
◆ 預金利息の推移
- 前年同期:548百万円
- 当期:2,108百万円
- 増加額:+1,560百万円
- 増加率:+284.7%(約3.8倍)
ポイントは、
金額ベースでは貸出金利息の増加額の方が大きいにもかかわらず、
伸び率では預金利息が圧倒的という点です。
この数字の組み合わせが、現在の地方銀行決算を理解するカギになります。
なぜ「逆ザヤ」と言われるのか
この局面でよく使われる言葉が「逆ザヤ」です。
ただし、ここで言う逆ザヤは、
「貸出金利より預金金利の方が高い」という意味ではありません。
実際には、
- 預金金利は、競争や世論を背景に比較的短期間で引き上げられる
- 既存の貸出金利は、すぐに一斉改定できない
という時間差が存在します。
その結果、
調達コスト(預金利息)の増加スピード
>
貸出金利収入の増加スピード
という状態が、一時的に発生します。
これが「逆ザヤ感」と呼ばれる状況の正体です。
逆ザヤなのに、なぜ増益になるのか
ここで、多くの経営者が疑問に感じる点があります。
「逆ザヤなら、銀行は利益が出にくいはずでは?」
「それなのに、なぜ増益決算になるのか?」
結論から言えば、
逆ザヤは損益計算書の一部分の現象にすぎないからです。
◆ 利ざやは圧迫されていても、利回りは上がっている
確かに、既存貸出の金利はすぐには上がりません。
しかし、新規貸出や更新時の貸出、短期運転資金などは、すでに高い金利で積み上がり始めています。
そのため、
- 平均貸出利回りは上昇している
- ただし、預金利息の増加が先に効いている
という状態になります。
結果として、
利息収入は増えているが、利益の伸びは小さい
という決算になりやすいのです。
◆ 利息以外の要素も、利益を下支えしている
多くの地方銀行では、次のような動きも同時に進んでいます。
- 手数料収入の増加
- 有価証券運用環境の改善
- 店舗統廃合や人員見直しによる経費削減
これらが、
利ざやの圧迫を部分的に補い、
「逆ザヤ感がある中でも、トータルでは増益」
という決算を支えています。
業態別に見る、金利上昇の効き方の違い
◆ 第1地方銀行
決済用普通預金など、金利の低い預金を多く抱えているため、
金利上昇局面でもコスト増は相対的に緩やかです。
もっとも、
定期預金金利の引き上げ圧力や、法人貸出を巡る競争は避けられず、
「有利ではあるが、決して楽ではない」局面に入っています。
◆ 第2地方銀行
定期預金比率が高く、
預金金利の上昇がコストとして早く表れやすい構造です。
金利上昇の初期局面では、
調達コストの増加が先行し、
逆ザヤ感が最も表面化しやすい業態と言えます。
◆ 信用金庫
市場金利と即座に連動しない資金が多く、
急激な変化には比較的強い一方、
金利上昇が定着すると、利息負担がじわじわ効いてきます。
これから、銀行はどう動くのか
金利上昇が続けば、
貸出金利は徐々に収益に効いてきます。
一方で、借り手側の返済負担は確実に増え、
信用リスクも高まります。
つまり銀行は、
- 利回りは確保したい
- しかし、貸倒リスクは増やしたくない
という綱引きの局面に入っています。
この結果、
- 条件の良い先
- 返済構造が明確な先
- 説明力のある先
から、より慎重に融資判断が行われるようになります。
まとめ:経営者が持つべき視点
銀行の「仕入れ値」である預金利息は、
すでに大きく変わり始めています。
その影響は、
今後の金利交渉や融資条件に、少なからず反映されていくでしょう。
経営者として重要なのは、
自社の決算内容や資金使途を、銀行目線で説明できるかです。
銀行の内側で何が起きているのかを理解することは、
これからの資金調達を考えるうえでの、ひとつの重要な財務戦略になりつつあります。
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