はじめに
経営が軌道に乗り、忙しくなってくると検討し始めるのが「従業員の採用」です。
しかし、1人を雇用するということは、単に給与を支払うだけでは済みません。
法定福利費や備品代、教育コストなど、目に見えない支出が重なり、結果として「忙しいのに利益が残らない」という状況に陥るリスクもあります。
新たな仲間を迎え入れる前に、経営者として把握しておくべき具体的な数字の目安を整理しておきましょう。
この記事で分かること
- 従業員を1人採用する際にかかる「本当のコスト」の内訳
- 採用の判断基準となる「限界利益率」と「粗利率」の違い
- 業種別のシミュレーションによる必要売上高の具体例
- 人件費増をカバーするために必要な売上高の計算方法
従業員1人にかかるコストは給与の約1.5倍
まず認識しておくべきは、従業員に支払う「額面給与」と、経営者が負担する「総コスト」の差です。
一般的に、1人を雇用するために必要な経費は、給与の1.5倍から2倍程度と言われています。
- 法定福利費(社会保険料の会社負担分)
健康保険、厚生年金、雇用保険、労災保険など、給与の約15%前後を会社が負担します。
- 通勤交通費や福利厚生費
通勤手当や健康診断、慶弔見舞金などが含まれます。
- 設備・備品代
デスク、PC、ライセンス費用、制服など、仕事をする上で欠かせないインフラ整備費です。
- 採用・教育コスト
求人広告費だけでなく、教育にかける既存スタッフや経営者の時間も、実質的なコストに含まれます。
例えば、月給25万円の社員を採用する場合、社会保険料や諸経費を含めると、会社としては毎月35万円〜40万円程度の支出増を覚悟する必要があります。
採用判断の鍵を握る「限界利益率」とは
人件費が増える分、売上を増やさなければならないのは当然ですが、ここで「売上=利益」ではない点に注意が必要です。
採用の可否を判断する上で欠かせないのが「限界利益率」という指標です。
限界利益とは、売上高から「売上に連動して動く費用(変動費)」を差し引いた利益のことです。
限界利益 = 売上高 - 変動費(仕入高・外注費など)
そして、売上高に対する限界利益の割合を「限界利益率」と呼びます。
限界利益率 = 限界利益 ÷ 売上高
◆ 「粗利率」との違いに注意
よく似た言葉に「粗利率(売上総利益率)」がありますが、経営判断においては使い分けが重要です。
粗利の計算に含まれる「売上原価」には、現場スタッフの給与など、売上の増減に関わらず発生する固定費が含まれることがあります。
一方、限界利益は「売上が1件増えたときに、直接増える費用(変動費)」だけを引いて計算します。
「あと1人雇う余裕があるか?」を考える際は、すでに発生している固定費を一旦脇に置き、1件売るごとにいくら「給料の原資」が生まれるかを見極めるため、この「限界利益率」をベースにするのが最も正確です。
業種別シミュレーション:1人を雇うために必要な「純増売上」
では、実際にどれくらいの売上を上積みすればよいのでしょうか。
月額コストが40万円増加すると仮定し、限界利益率が異なる2つのケースでシミュレーションしてみます。
必要売上高 = 増加する固定費(人件費など) ÷ 限界利益率
◆ ケース1:サービス業やソフト開発(限界利益率 80%)
仕入が少なく、自社のリソースで価値を提供する業種の場合です。
- 増加コスト:40万円
- 限界利益率:80%
- 必要な売上増:50万円 / 月(年間 600万円)
このケースでは、採用した従業員が月に50万円以上の案件をこなす、あるいは経営者が50万円分の新規案件に注力できる環境を作れれば、採算が合います。
◆ ケース2:小売業や飲食業(限界利益率 30%)
材料費や商品の仕入代金が多くかかる業種の場合です。
- 増加コスト:40万円
- 限界利益率:30%
- 必要な売上増:約133万円 / 月(年間 約1,600万円)
利益率が低いほど、人件費を捻出するために必要な売上高は跳ね上がります。
単に従業員を増やすだけでなく、「客単価を上げる」「オペレーションを効率化する」といった施策がセットで必要になることが分かります。
利益率が高いほど「採用ハードル」は低い?
結論から言うと、限界利益率が高いビジネスほど、1人を雇うために必要な「追加売上」が少なくて済むため、採用のハードルは低くなります。
月額コストが40万円増加する場合、業種によってこれだけの差が出ます。
| 業種(例) | 限界利益率 | 雇うために必要な月間売上高 |
| IT・コンサル・サービス業 | 80% | 50万円 |
| 一般的な製造業 | 50% | 80万円 |
| 飲食・小売業 | 30% | 約133万円 |
利益率が低い業種では、高い業種の2.5倍以上の売上を作らなければ、採用前より利益が減ってしまいます。
これが「利益率が低いと人を雇うのが怖い」と感じる数字の正体です。
採用を「単なるコスト」から「投資」へ
数字上の損益分岐点を知ることは不可欠ですが、それ以上に大切なのは、採用した従業員が「どのように付加価値を生むか」という設計です。
もし、事務作業を任せることで、経営者が月額100万円の利益を生む商談や仕組みづくりに専念できるのであれば、人件費40万円は非常にリターンの高い「投資」になります。
一方で、現状の業務が回らないからという理由だけで、付加価値を生まない作業の代行として雇ってしまうと、人件費は経営を圧迫するだけの「コスト」に留まってしまいます。
まとめ
従業員の採用は、中小企業にとって最大の投資の一つです。
- 給与の1.5倍以上のコストがかかることを想定する
- 「粗利」ではなく「限界利益率」を把握し、必要な売上増を算出する
- 採用によって経営者がどの「高付加価値業務」に集中できるかを明確にする
これらの数字を事前にシミュレーションしておくことで、採用後の「こんなはずじゃなかった」を防ぎ、自信を持って新しい一歩を踏み出すことができます。
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