はじめに
帝国データバンクの調査により、2025年の学習塾の倒産件数が過去最多を更新したことが報じられました。
少子化の影響はもちろん無視できませんが、現場の状況を詳しく見ると、それだけが要因ではない複雑な背景が浮かび上がってきます。
今、多くの塾を苦しめているのは、
・利益が出ているように見えても手元の現金が不足する
・あるいは借入金の返済負担が重くのしかかる
という、資金繰りの構造的な変化です。
かつては前受金ビジネスとしてキャッシュフローが安定していた学習塾業界において、
なぜ今、資金繰りの行き詰まりが目立っているのか。
現在の経営環境と、変化する融資現場の状況を整理します。
加速する「三重苦」:中小塾のキャッシュを圧迫する要因
現在、多くの中小学習塾では、支出が先行し、収入が追いつきにくい状況が続いていると考えられます。
① 採用コストと人件費の上昇
まず挙げられるのが、採用コストと人件費の上昇です。
最低賃金の引き上げに加え、講師不足から求人媒体への掲載費用も増大する傾向にあります。
特に質の高い講師を確保するための時給アップは避けられず、授業料への転嫁が難しい塾では、毎月の給与支払いが手元の現金を圧迫する要因となっています。
② デジタル対応への投資
次に、デジタル対応への投資です。
オンライン授業のシステム整備や、保護者とのコミュニケーション用アプリの導入など、
現代の塾経営においてIT投資は欠かせないものとなりました。
これらの初期導入費や月々の保守費用が、経営の固定費を押し上げています。
③ 集客コストの増大
そして、集客コストの増大です。
かつての新聞折込チラシなどの手法が通用しにくくなり、Web広告やSNSの活用が不可欠となりました。
大手塾がネット広告に多額の予算を投じる中で、
中小塾が1人の生徒を獲得するために必要なコストも上昇傾向にあり、
これが利益率を押し下げる一因となっているようです。
オンライン勢の台頭がもたらした収益構造の変化
資金繰りに影響を与えているもう一つの要因は、
オンライン予備校や通信講座、YouTube学習などの
「通塾以外の選択肢」の充実です。
従来の対面塾は、立地条件の良い場所に教室を構え、そこへ通う生徒からの月謝で運営するモデルでした。
しかし、低価格で高品質な授業が受けられるオンラインサービスの普及により、
対面塾の授業そのものに対する付加価値の再定義が迫られています。
その結果、月謝の値上げが難しくなる一方で、
家賃や光熱費、人件費などの固定費は上昇し続けています。
この売上とコストのバランスが崩れることで、キャッシュフローが慢性的に厳しくなっているケースが見受けられます。
変化する金融機関の融資姿勢
資金繰りが厳しくなった際、以前ほどスムーズに融資が受けられなくなっている可能性も指摘されています。
背景の一つとして考えられるのは、
コロナ禍で実施されたゼロゼロ融資(実質無利子・無担保融資)の返済本格化です。
【関連記事】👉ゼロゼロ融資とは何だったのか?~令和8年に返済が本格化する理由と資金繰りへの影響
2024年から2025年にかけて返済が始まっていますが、
業績が十分に回復していない場合、金融機関側も追加の運転資金の融資には慎重な判断を下さざるを得ない状況があります。
また、金融機関は将来の成長性を重視します。
少子化の影響でターゲットとなる子供の数が減少傾向にある地域では、
将来の返済能力を証明する材料として、より説得力のある事業計画が求められるようになっています。
今の時代において、固定費の重いモデルが持続可能なのかどうか、金融機関からも厳しい視線が注がれていると考えられます。
資金繰り改善に向けた財務の視点
このような環境下で生き残るためには、これまでの経営スタイルを見直し、財務体質を強化することが重要です。
◆ 資金繰りの可視化
まず取り組むべきは、資金繰りの可視化です。
塾経営には、季節講習などで現金が入る時期と、そうでない時期の波があります。
1年単位での資金繰り表を作成し、どの時期に現金の残高が減るのかを事前に予測しておくことで、急な資金不足を回避する準備が可能になります。
◆ 固定費の見直し
また、固定費の柔軟な見直しも欠かせません。
高い家賃が負担になっているのであれば、拠点の集約や、一部オンライン化による面積縮小など、
身軽な経営体制へのシフトを検討することも一つの手です。
融資を検討する際には、単なる不足分の補填ではなく、
効率化や差別化につながる投資として説明できることが、審査のポイントになると考えられます。
目立つ立地よりも「送迎とSNS」がキャッシュを守る
さらに、地方都市における塾経営においては、より現場に即した生存戦略が求められます。
これまでは「大通り沿いや駅前などの目立つ場所(一等地)」に教室を構えることが最大の集客装置でしたが、
今の時代、その高い家賃負担が逆に経営を圧迫する要因になり得ます。
地方都市の保護者にとって、「教室が目立つ場所にあるか」
よりも、
「送迎がしやすいか(十分な駐車スペースがあるか、近隣に待機場所があるか)」
という切実な利便性であることが少なくありません。
たとえ一本裏道に入った家賃の安い物件であっても、
SNSを通じて教室の日常や講師の人柄をこまめに発信することで、
地域コミュニティ内での信頼を獲得し、十分な集客を行うことは可能です。
つまり、視認性の良い高額な物件に固執して高い固定費を払い続けるよりも、
SNSを活用して認知度を広げつつ、
送迎の利便性を高めて退塾率を下げる方が、
結果として家賃を抑制し、手元の現金を残す「筋肉質な経営」につながりやすいと考えられます。
まとめ
2025年の倒産件数の増加は、学習塾業界を取り巻く環境が大きな転換期にあることを示唆しています。
少子化やオンライン化といった構造的な変化の中で、多くの塾が資金繰りの再構築を迫られています。
厳しい状況ではありますが、自塾の財務状況を冷静に分析し、
地域のニーズやコスト構造の変化に合わせた効率的な運営へと舵を切ることができれば、
持続可能な経営を実現する道は見えてくるはずです。
授業の質の向上とともに、今の時代に適したキャッシュの流れを整える財務戦略が、
これからの経営者には求められています。
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