はじめに
「借りられるときに、借りられるだけ借りておけ」
多くの経営者が、先輩経営者や金融機関から一度は耳にしたことがあるアドバイスでしょう。
私も以前、手元資金に厚みを持たせることで「資金ショート」という最悪の事態を防ぐ重要性をお伝えしてきました。
【関連記事】👉 無借金?借りられるだけ借りる?
しかし、なぜ銀行が「長期」の融資を積極的に勧めてくるのか、その背景まで理解している方は多くありません。
良かれと思って受け入れた提案が、実は経営の自由度を奪い、将来の首を絞める時限爆弾になってしまうケースもあるのです。
この記事では、長期運転資金が定着した歴史的背景を紐解くとともに、
戦略的な借入と「思考停止の借入」の違い、そして自社の安全圏を見極めるための具体的な指標について解説します。
なぜ銀行は「とりあえず長期で」と勧めるのか
銀行から「長期で借りませんか?」と提案を受ける際、そこには銀行側の事情も含まれています。
銀行にとって長期融資は、長期間にわたって安定した利息収入が見込める「収益性の高い商品」です。
また、一度の契約で数年分の貸出実績を維持できるため、銀行員にとっては手続きの手間が省ける効率の良い融資でもあります。
ここで注意したいのは、経営者が「特に使い道はないけれど、銀行が勧めるから」という理由で流されてしまう場面です。
【よくある場面の例】
決算が順調だったある日、銀行の担当者が訪ねてきます。
「今期は業績が良いですね!今なら非常に低い金利で、5年の長期融資が可能です。
将来の備えとして、手元に置いておきませんか?」
経営者は「特に大きな投資予定はないが、安く借りられるなら安心料として借りておこう」と判断します。
これが「目的のない借入」の典型的なケースです。
手元の通帳残高が増えると一見安心しますが、
実態は「5年かけて利息を払いながら、毎月元金を返し続ける義務」を背負ったことになります。
もしその資金が利益を生まないまま眠っていれば、数年後の資金繰りをじわじわと圧迫する要因になりかねません。
長期融資が一般的になった歴史的背景
現在、運転資金を5年から10年の長期で借りることは当たり前になっていますが、
実はこの慣習が定着したのはここ20年ほどのことです。
きっかけは、2003年(平成15年)に金融庁から出された通達と言われています。
それまでは、短期融資を継続的に更新する「転がし」という手法が主流でした。
しかし、この通達によって短期融資の安易な更新が「不良債権」と見なされるリスクが生じたため、
金融機関は自社の評価を守るために、一斉に長期の証書貸付へと切り替えていったのです。
つまり、現在の長期融資の主流化は、企業の資金ニーズの変化というよりも、金融機関側の管理上の都合という側面がありました。
この背景を知ると、銀行の提案をそのまま受け入れるのではなく、自社にとって最適な形を主体的に考える必要性が見えてきます。
自社の安全性を測るキャッシュフロー返済倍率
私が「借りられるうちに借りるべき」と言うとき、それは「返済能力の範囲内であること」が大前提です。
その客観的な判断基準となるのが「キャッシュフロー返済倍率」です。
返済の原資はフリーキャッシュフローです。簡易的には以下の計算式で求められます。
フリーキャッシュフロー = 経常利益 + 減価償却費 - 法人税等
このキャッシュフローに対して、年間の返済額がどの程度の割合かを確認します。
キャッシュフロー返済倍率 = 年間の借入元金返済額 ÷ 年間のフリーキャッシュフロー
理想的な水準は、この倍率が1倍以内であることです。
生み出した現金の範囲内で返済が完結している状態です。
さらに余裕を持たせるなら、返済額をキャッシュフローの7割程度に抑えるのが望ましいといえます。
もし返済額がキャッシュフローの数倍に達している場合は、
事業から生み出した現金だけでは返済が追いつかず、新たな借入で返済を繋いでいる「自転車操業」の状態かもしれません。
一度、自社の決算書で計算してみてください。
融資の価値を決める事業計画の重要性
長期運転資金という仕組み自体に善悪はありません。
その借入が会社にとってプラスになるかマイナスになるかを分けるのは、経営者の「計画」があるかどうかです。
借入を「不足した現金を埋めるための手段」として捉えるだけでは、根本的な解決にはなりません。
大切なのは、損益計画と資金繰り表をセットで作成し、将来の現金の流れを予測することです。
「この資金を投入することで、数年後にどれだけの利益とキャッシュを生み出せるのか」
「そのキャッシュの範囲内で、無理なく返済していけるのか」
このシナリオが描けていれば、長期借入は事業を安定させ、次なる成長への準備期間を作る強力な武器になります。
👉 “事業計画書”作れますか? – Willshine行政書士事務所|三条市の融資・資金繰り支援専門
前向きな投資としての長期資金活用
明確なシナリオに基づいた長期資金の活用例として、成長のための投資が挙げられます。
- 設備投資や新規事業の立ち上げ
- 優秀な人材の採用
- 生産性向上のためのIT投資
- M&Aによる事業拡大
これらは、一時的に借入が増えたとしても、将来的にそれ以上のキャッシュフローを生み出すことが期待できる前向きな借入です。
目的が明確であれば、長期で資金を確保しておくことは、
経営の安定性を高めながら成長スピードを加速させる合理的な選択となります。
まとめ
「借りられるときに借りる」という考え方は、資金ショートを防ぐ防衛策として一理あります。
しかし、それ以上に大切なのは
「返済可能な事業計画に基づいて、戦略的に借りること」
です。
銀行の提案に思考停止で従うのではなく、自社のキャッシュフローを正確に把握し、未来の成長戦略を自ら描く。
融資とは、そのシナリオを実現するための手段に過ぎません。
自社の返済能力を改めて確認し、根拠のある資金調達を行うことが、持続可能な経営への第一歩となります。
お問い合わせはこちら
中小企業の資金繰り改善や、事業計画の策定に関するご相談を承っております。
「自社のキャッシュフローで今の返済額が妥当なのか知りたい」
「銀行交渉に向けた計画書を作成したい」
といったお悩みがあれば、お気軽にお問い合わせください。
行政書士として、経営者の皆様の伴走者となり、健全な財務体質づくりをサポートいたします。
現在の財務状況を伺った上で、最適なキャッシュ確保戦略をご提案します。
無料メルマガ登録のご案内
数字を見るのがちょっと気が重いな、という社長へ。
“お金のモヤモヤが少し軽くなる”メルマガをやっています。
経営にまつわるお金の話を気軽に読める形で、週1回お届けします。