銀行融資における三次評価(潜在返済能力)
銀行は融資の審査において債務者区分を設定して企業を格付け評価します。
評価は一次評価(定量評価)、二次評価(定性評価)、三次評価(潜在返済力)の3段階に分かれています。
銀行の査定フローについては、まず一次評価の採点結果に応じて、格付けランク(1~10格)まで振り分けます。
その後、二次評価、三次評価に応じたランクアップ、ランクダウンで調整する仕組みです。

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三次評価では、代表者の個人収支、資産余力、返済状況の実態で、ランクアップか維持かダウンかで再評価します。
二次評価の場合は、決算書の数値に直接出てこない部分を銀行員の主観で評価することになっていますが、実務上はあまり力が入っておらず、余程のことがなければ点数は付きません。
一方、三次評価では代表者個人の収支・財産や、返済の実績が客観的に見えるため、ランクアップを獲得できる可能性があります。
その結果、一次評価で融資不可の評価であったとしても、三次評価でランクアップすれば、融資を受けられるように変わることもあり得ます。
潜在返済能力評価前の債務者区分
銀行は決算書から企業の財務状況を点数化し、企業を「正常先」「要注意先」「要管理先」「破綻懸念先」「実質破綻先」「破綻先」の6区分の債務者区分に整理します。
この債務者区分の評価をより簡易に実施することもあり、簡易判定の基準は以下の4つです。
①債務超過かどうか
②営業利益が2期連続赤字かどうか
③繰越損失(過去の累積損失の残り)があるかどうか
④既存融資の返済を1か月以上滞納しているかどうか(滞納の期間や条件変更により評価差あり)
以上の組み合わせで、簡易的に債務者区分の整理を行いますが、
①の債務超過が2期連続となると、新規の融資は原則不可となります。
一方、銀行が経営者個人の収支余力や資産余力を評価してくれれば、新規融資の可能性が出てきます。
潜在返済能力の事例
(事例1)
多額の代表者報酬により赤字となっていることについて
概況:
債務者は、当信金メイン先(シェア55%、与信額:平成13年3月決算期100百万円)。地元スーパー等を主な顧客とした広告代理業を営む業歴10年超の会社であり、当信金とは創業当時から取引がある。
業況:
最近の景気低迷等の影響から売上は横ばいとなっており、2期連続して赤字を計上し、繰越欠損金(30百万円)を抱えている。当金庫は、経常運転資金に加え、5年前に事務所改装資金に応需している。債務者の赤字は、売上が低迷している中においても、相変わらず多額の代表者報酬や支払家賃を計上していることが主な要因である。当金庫は、今期、代表者報酬の削減について強く指導していく方針を持っている。なお、現在まで延滞や条件変更の発生はない。
自己査定:
当金庫は、現状、多額の代表者報酬が赤字の原因であり、返済は正常に行なわれていることから、正常先としている。
(事例1解説)
・「2期連続赤字」という財務状況からすれば、本来「要注意先」に区分される企業である。
・一方、中小・零細企業等の場合、赤字・債務超過が直ちに、要注意先以下の債務者区分であるとすることなく、赤字の発生原因や金融機関への返済状況、返済財源について確認する必要がある。
・赤字の要因が多額の代表者報酬等にあるとされているが、このことが財務諸表等により確認ができ、かつ、当信金への返済が代表者個人の資産から賄われており、今後とも返済が正常に行なわれていく可能性が高いならば、正常先に相当する可能性が高い。
・仮に、代表者個人の収支や借入金等の状況から、今後の約定返済に支障をきたすと認められる場合には、要注意先以下に相当するかを検討する必要がある。
※ 金融検査マニュアル別冊〔中小企業融資編〕より抜粋
(事例2)
代表者の資力を法人・個人一体と見ることについて
概況:
債務者は、当金庫メイン先(シェア80%、与信額:平成13年12月決算期180百万円)。不動産仲介、賃貸及び戸建分譲の3分野を手掛けている昭和62年に取引を開始した不動産業者である。
業況:
最近の景気低迷による仲介物件や戸建分譲の減少から、売上は下落傾向にある(前期 146百万円)ため、毎期赤字を計上している。また、バブル期の分譲プロジェクト計画が頓挫して塩漬けになっている土地が多額の含み損を抱えていることから前期100百万円の実質債務超過となっている。
当金庫の融資額は上記プロジェクト資金で、これまで元本の期日延長を繰り返していたが、ここにきてようやく期日一括返済から長期間にわたる約定返済に切り替え、代表者が個人預金から返済を行っている。
代表者は、土地等の不動産(処分可能見込額ベース)及び家族預金等を前期末で合計120百万円程度有している。
自己査定:
当金庫は、代表者は会社が有事の際には私財を提供する覚悟があることが確認できていることから、法人・個人一体として考えると債務超過の状態にはなく、加えて現に、代表者が返済していることを踏まえ、要注意先としている。
(事例2解説)
・貸出金は長期にわたって実質延滞状態にあるほか、多額な塩漬け物件の含み損等から実質大幅な債務超過状態にあり、貸出金の回収に重大な懸念があるとも考えられ、破綻懸念先に相当する可能性が高い。
・一方、代表者は、企業の実質債務超過相当額を上回る個人資産を有し、当該資産を債務者に提供する意思も確認されているほか、現に、個人資産から企業の借入金の返済も行っている状況にある。
したがって、こうした代表者の資産内容を検証したところでの返済能力や返済の意思が十分確認できるのであれば、要注意先に相当する可能性が高い。
・代表者等の資産について検討するに当たり、その資産の有無のみならず負債や代表者等個人の収支状況等についても確認する必要がある。
・代表者が当該企業と別に企業を営んでいる場合、当該別企業の業況が芳しくなく、当該別企業に対して今後もかなりの資産提供が予想される場合や個人で多額の借入金を有する場合などについては、その程度に応じて、要注意先以下に相当するかを検討する必要がある。
※ 金融検査マニュアル別冊〔中小企業融資編〕より抜粋
法人・個人合体B/S
法人(企業)の貸借対照表(B/S)の下に、
個人の資産・負債・正味財産(資産-負債)を貸借対照表(B/S)状に記載します。
個人と法人間の借入れ・貸付けが両建てになっているところは、両者相殺(消し合い)ます。
例えば、長期借入金のうち、経営者個人から借り入れているものがある場合は、企業B/Sの「経営者からの長期借入金」(負債)と、個人B/Sの「法人への貸付金」(資産)をそれぞれゼロにします。
その結果から「法人・個人合算自己資本」を算定します。
最後に末尾に「個人資産を債務者(企業)に提供する意思があります」の下に、経営者が署名をします。
まとめ
個人財産を銀行に明らかにしてしまうと、担保に入れられてしまうのではないか、と心配になりますが、そのようなことはありません。
前述のように、署名をして意思表示してはじめて、法人と個人を一体のものとして評価されることになります。
会社の財務諸表があまり芳しくなく、銀行から新規の融資を受けられない状況にある方は、「代表者個人の収支状況」「所有不動産一覧表」「借入金一覧表」「保証債務一覧表」など、個人の状況を提示のうえ、意思表示を行えば、改めて評価(三次評価)されてランクアップにより、融資を受けられるチャンスが出てきます。
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