はじめに
経営のバトンは渡したものの、工場の土地や自社株の多くを依然として先代(親)が持っている。
中小企業の現場ではごく当たり前の光景ですが、ここには致命的な経営リスクが潜んでいます。
もし先代が認知症などで判断能力を失えば、その瞬間に会社の重要資産は法的にロックされ、売却も担保提供もできなくなるからです。
これまでは、こうした状況に直面しても、
「一度始めたら一生やめられない」という使い勝手の悪い法定後見制度に二の足を踏み、
結果として資産の硬直状態から逃れられなかった経営者も少なくないのではないでしょうか。
こうした背景を踏まえ、
制度の利便性を高め、実情に合わせた柔軟な利用を可能にするため、
2026年4月3日に政府は民法などの改正案を閣議決定しました。
2028年度中の運用開始を目指すこの新制度は、
これまでの「一度始めたら一生やめられない」という出口のない制度から脱却する大きな一歩となります。
しかし、制度が変わっても「資産の売却」という高い壁は依然として残ります。
この壁をどう乗り越え、経営を守るべきか。その核心を整理します。
この記事で分かること
- 2028年度から導入される、特定の目的に絞ったスポット利用の仕組み
- 必要がなくなった際に制度を終了できる、柔軟な設計への転換
- スポット利用でも依然として高い「資産売却」のハードル
- 裁判所に売却の合理性を検討してもらうための、現実的な考え方
手続きの入り口を広げるスポット利用の解禁
今回の改正案で最も注目されているのは、特定の課題を解決するためだけに代理権を付与し、目的が達成されれば制度を終了できるスポット利用の新設です。
これまでは、たとえ自社株を後継者に譲渡したいという一度きりの手続きが目的であっても、一生続く重い後見制度を受け入れるしかありませんでした。
新制度では、こうした特定の経営課題に対して期間限定で制度を活用できるようになります。
外部の専門家に一生通帳を握られ続けるという心理的な障壁が下がることは、経営者にとって大きな前進といえます。
資産売却のハードルはなぜ高いままなのか
しかし、ここで経営者が直面するのが「制度の使い勝手は良くなるが、売却の許可が下りるとは限らない」という厳しい現実です。
成年後見(補助)制度の本来の使命は、あくまでも本人の財産を守ることにあります。
裁判所や後見人は、本人の資産を売って損をさせるようなことは、新制度になっても簡単には許さない傾向があります。
会社の資金繰りが苦しいから土地を売りたいという理由は、
会社にとっては正論であっても、本人の財産を減らす行為とみなされれば、許可が下りない可能性が高いのが実情です。
売却の壁を乗り越えるための論理設計
では、どうすればこの高いハードルを乗り越えられるのでしょうか。
その可能性を探るためには、会社の都合を「本人の利益」という視点から丁寧に整理する設計が求められます。
例えば、先代が会社の借入に対して個人保証(連帯保証)を提供しているケースは少なくありません。
この場合、「土地を売却して会社の負債を圧縮する」という行為は、単なる会社の都合にとどまらず、
先代本人が負っている多額の保証債務のリスクを軽減させるという、本人にとっての直接的な利益(リスク回避)として評価される余地があります。
このように、会社の経営課題と本人の財産保全の接点を見出し、裁判所にその合理性を検討してもらうための材料を提示すること。
スポット利用という新しい枠組みを活かすためには、単なる手続きの代行にとどまらない、こうした論理の組み立てが、売却の認容に向けた検討材料の一つになると考えられます。
役割が終われば終了できる出口の確保
今回の改正の真の価値は、こうした特定の目的に絞ったアプローチを行い、役割が終われば制度を終了できる出口が明確に設計された点にあります。
必要な手続きが終われば、元の形に戻れる。
この安心感があるからこそ、経営者はリスクを検討した上で資産のロック解除に向けて動き出すことができるようになります。
単に売却のところだけお願いしたいのに、望んでもいない日常の財産管理まで一生任せなければならないといった従来の成年後見制度の足かせに悩むことは、今後はなくなります。
一生モノの重い契約ではなく、必要な時だけ装着する経営の修理ツールとして、制度を位置づけることができるようになるのです。
まとめ
2028年度の運用開始を目指す今回の改正は、成年後見制度を出口のない檻から、経営の停滞を防ぐための脱着可能なツールへと進化させるものです。
ただし、制度が柔軟になったとしても、資産の売却や移動には依然として本人の利益保護という高い壁が存在します。
その壁を乗り越えるには、本人の状況と経営課題をどう結びつけるかという、これまでにない緻密な設計が求められます。
先代が認知症になる前に、どの資産にリスクがあるのかを把握し、もしもの時にどの論理でロックを外すのか。経営の安定を守るための備えは、今この瞬間から始まっています。
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