この記事で分かること
- 融資の指針と銀行実務の間に横たわる深い溝の正体
- 銀行員が保証を外すことに慎重にならざるを得ない組織構造
- 担当者の心理を汲み取った、実効性のある交渉の進め方
はじめに
◆ 制度と実態のギャップ
これまで、経営者保証の解除に向けた国の強力な後押しや、
不動産担保に頼らない新しい融資のカタチである「企業価値担保権」など、
資金調達の未来を変えうる最新の動向をたどってきました。
【関連記事】👉 経営者保証はもう時代遅れ?保証外しに向けた最新動向と実務対応
👉 経営者保証の解除に向けた取組み
制度面では、明らかに担保や保証に依存しない融資がスタンダードになりつつあります。
◆ 稟議書という見えない壁
しかし、歴史を振り返れば、これまでも事業性評価や経営者保証ガイドラインといった言葉が何度も現れては、現場の厚い壁に押し戻されてきました。
なぜ、これほどまでに革新的な変化が起きにくいのか。
その核心には、銀行員が向き合う稟議書という仕組みと、作成者が直面する加点なき減点主義という切実な事情があります。
融資の5つの原則と現場の読み替え
◆ 建前としての5原則
銀行が融資判断の根幹とする5つの原則(安全性・公共性・収益性・成長性・流動性)は、
現場の担当者の手元では、しばしばいかに責任を回避するかという視点で読み替えられます。
【関連記事】👉 銀行はどうやって融資判断をするのか?5つの原則と稟議書の必須項目
◆ 安全性を保全に置き換える心理
特に安全性の解釈には、現場ならではの偏りが生じがちです。
事業の将来性を分析して安全を証明するには、緻密な分析と本部を納得させるだけの膨大な筆力を必要とします。
一方で、担保と保証を付ければ、客観的な数値で安全性を提示でき、担当者の説明責任は大幅に軽減されます。
本来、成長性を評価すべき場面でも、予測が外れた際の目利き違いという烙印を恐れ、過去の実績である決算書と、目に見える保全に頼る力学が働いてしまいます。
稟議書をめぐる加点なき減点主義
◆ 失敗の代償が大きすぎる組織
政府や金融庁がどれほど事業性を見ろ、保証を外せと号令をかけても、現場の銀行員にとってそれは、リスクだけが増えて見返りのない、報われない仕事になりかねません。
銀行という組織は、未だに根強い減点主義の中にあります。
◆ 証拠資料としての稟議書
ここで重要なのは、指針に沿って保証を外したからといって、人事評価でよくやったと褒められる加点はほとんど存在しないという点です。
一方で、もし無保証で通した案件が数年後にデフォルト(債務不履行)すれば、担当者は本部からなぜあの時、取れるはずの保証を外したのかと厳しく詰められます。
つまり、指針を守るメリットよりも、失敗した時のデメリットがあまりに大きすぎるのです。
この詰められることへの恐怖が、担当者のペンを保守的にさせます。
彼らにとって稟議書は、融資を通すための道具であると同時に、将来の自分を守るための証拠資料でもあるのです。
支店長の出世と逃げ切りの力学
◆ 任期という名のタイムリミット
支店の最終決定権を持つ支店長もまた、この力学の中にいます。
支店長の任期は通常2年から3年。
その間に大きな倒産事故を起こさず、無難に過ごすことが、次のポストや出世への絶対条件となります。
◆ 審査部とのパワーバランス
わざわざリスクを取って審査部と対立し、無保証融資を推進するインセンティブは、組織構造上、極めて薄いといえます。
むしろ、部下に対して念には念を入れて保全を固めておけと指示するほうが、自身の任期中の平穏を保つためには合理的です。
どれほど制度が変わっても、この任期中の無風状態を望む構造が変わらない限り、革新的な変化は起きにくいのが実情です。
現場を動かすための「稟議の設計」
◆ 担当者を説得の味方につける
では、会社側はどうすればよいのでしょうか。
銀行員が責任を恐れるサラリーマンである以上、彼らにリスクを取れと迫るのではなく、
彼らがリスクではないと社内に説明できる材料を揃えてあげることが唯一の解決策です。
具体的には、銀行員がそのまま稟議書に転記できるレベルの資料を用意することです。
決算書の数字だけでなく、自社の強みや市場の優位性を言語化し、客観的な根拠に基づいた事業計画を提示します。
◆ 透明性と客観性の重要性
また、経営者保証を外すためには、法人と個人の資産が明確に分離されていることを証明し、情報の透明性を高める必要があります。
担当者がこの会社なら保証がなくても、本部に対して十分な説明がつく、と確信を持てる状況を、経営者自らが設計していく姿勢が求められます。
彼らを説得の味方につけるための、緻密な準備こそが実務上の突破口となります。
まとめ
歴史的に繰り返されてきた融資制度の改革が、現場でなかなか浸透しない理由。
それは、銀行員が不誠実だからではなく、彼らが責任を問われることを極端に恐れる組織構造の中で生きているからです。
ガイドラインという正論を武器に保証を外せと迫るだけでは、彼らの防衛本能を刺激するだけかもしれません。
むしろ、担当者がこれなら上司や本部を説得できる、万が一の際も自分の責任にはならないと確信できるような、
客観的なデータや納得感のある材料をこちらから提示すること。
相手の保身という人間的な事情を理解した上で、彼らが稟議書を書きやすいように材料を整えてあげる。
そんな設計の視点を持って交渉に臨むことこそが、旧来の縛りを突破する現実的な鍵となります。
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銀行融資の現場で何が起きているのか、その裏側を理解することは、有利な資金調達を実現するための第一歩です。
担保や保証に依存しない融資を引き出すためには、銀行員が安心してハンコを押せる材料をどう用意するかが重要になります。
どのような対策が必要か、共に考えてみませんか。
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